日本企業の技術者は競合機分析をやらないって本当? 以前登場した灯油ポンプを例にして、競合機分析の基本を甚さんが伝授する
根川 甚八(ねがわ じんぱち)
根川製作所 代表取締役社長。団塊世代の大田区系オヤジ技術屋。通称、甚さん
国木田良太(くにきだ りょうた)
ADO製作所 PC事業部 設計2課 勤務。80年代生まれのイマドキな若者。機構設計者。通称、良君
*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
皆さん、第5回の「プラレール電車を設計分析しようじゃねぇかい!」は、いかがでしたか? 適切な電池の選択法を説明しましたが、これを設計工学では、「技術形式の選択」と称します。
再び、第1回の「灯油ポンプの設計書を書こうじゃねえかい!」の図1で、設計プロセス上でその位置を確認しておきましょう。
ところで、「なぜ単2電池を選択したのですか?」と、設計審査で問われたとします。造形者である3次元モデラーには答えられません。しかし、「設計思想とその優先順位」を設定し、検討を積み重ねた設計者ならば容易に答えられると思います。
一方、「2007年問題」に関して、技術を伝承してほしい人はたったの1割、後の9割は早く退散してほしい……。すべての企業とはいいませんが、これが開発現場の生の声です。若きエンジニアの皆さん、技術を伝承できる技術者になりましょう!
それでは恒例の「理解度チェック」です。3項目以上理解していた方は先へ進みましょう。そうでない方は、第5回を読み直してみてください。
理解度チェック
- 設計者の三大成果物は「設計書」「図面」「特許」である
- 最適技術や最適部品は、「思い付き」で選択すべきではない
- それは、設計思想とその優先順位で決めることを理解した
- プラレール電車の電池が単2である理由を説明できる
- 技術を伝承できる技術者になりたい
甚さん! 前回のプラレール電車の設計分析では、その電池サイズの選び方に目からウロコが落ちました……。感激です。
そうか! オレもうれしいってもんよ、あんがとよ。そんじゃ、いままでのオメェのような3次元モデラー流の選択法とはどういうことか、いってみやがれ。
行き当たりばったりの“思い付き選択法”でしたよ。一番安いとか、小さいとか、あとは有名ブランドとか。
だから、設計審査ができなかったんだよ。例えば『そのモーターはどうやって決めたのか?』 と聞かれっと、オメェは?
『別っつにぃ〜』っていっていました(笑)。エリカちゃんのマネをして。
べらんめぇ! エリカちゃんの悪口をいうな! 少なくとも、図面に関しては、オメェより上手(うわて)だ!
また出たよ。何度も甚さんからいわれるので、山田 学氏の『図面ってどない描くねん』で勉強しています。
なかなか関心なヤツだ。設計者は『日々是決戦』だ。OJT(おぉじぇてぇ)を期待する前に、まずはテメェで勉強しろってぇもんだ! これを自己研鑚(じこけんさん)というんだ。どうだ書けるか? 院卒だろうが。
ハイ! もちろん書けますとも。今日は、設計思想特訓の“ハイパーバージョン”なんですってね。早速、教えてください。お願いします。
まさか、今回もICレコーダーで取るってわけじゃねぇだろなぁ? じゃ、いまから行くぜぃ!
今回は「競合商品を設計分析で駆逐しようぜぃ!」というタイトルですが、「駆逐」とは少々過激な言葉ですね。
ここでは再び、灯油ポンプが登場します。第2回の「灯油ポンプの設計審査をしようじゃねえかい!」でも登場した灯油ポンプを“市場で人気ナンバーワンの人気商品”だと仮定します(図1)。
これから、この商品に対して果敢な挑戦を試みるのです。
皆さんの競合で、「オンリーワン」や「市場一番乗り」、つまり唯一の勝ち組企業や唯一のヒット商品はありませんか? それをターゲットとし、設計の立場から駆逐するための方法を甚さんに“伝承”してもらいましょう。
ここから、「設計思想とその優先順位」のハイパーバージョンに入っていきます。
オメェは確か、ADO製作所の“造形者”だっけなぁ?(笑)
甚さん、もう勘弁してくださいよ! 設計者と呼んでください。確かに僕は、ADO製作所でパソコンのフレームを……ゾウケ……いえ、セッケイしています!
だったらよぉ、競合機分析の結果をいってみやがれ!
……あ、競合機分析ってなんですか?
テンメェ! イーカゲンにしろっ!
そして、今回もまた(名物の)甚さんの鉄拳制裁が下りました。良君、こんな調子でハイパーバージョンの特訓についていけるのでしょうか。
ンモーッ! 痛い! だからポンポンぶたないでっていっているじゃないですか。
なんてぇ平和で、なんてぇノーテンキな日本企業だ! すんげー頭にきたから、オメェの会社の“ナイナイ主義”をまとめてやんよ!
設計者の3大成果物は、 1.設計書、2.図面、3.特許でした。 このうち「図面」しかなさそうです。 しかも良君は図面も描かず、アシスタントのエリカちゃんが描いていました。これでは、設計者は育ちません。
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