911テロで考える、材料力学が役立つ理由仕事にちゃんと役立つ材料力学(2)(2/2 ページ)

» 2008年02月14日 11時05分 公開
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その解析結果に疑問はないの?

 仕事柄、設計レビューに参加させていただく機会も少なからずあります。最近は設計者向けのCAEソフトも現場にだいぶ浸透してきて、設計した部品の解析結果の画像が設計レビューで登場することも多くなりました。

 部品に掛かる力の分布(「応力図」といいます)をキレイに色分けしたものや、力が掛かって変形した部品形状の画像がたくさん登場します。非常にキレイな画像ですし、非常に“もっともらしい”ので、それは設計した部品や製品の妥当性を裏付けるものとして、サラリと扱われています。僕にはいつも、質問がたーくさんあるのですが。

  • その解析結果がなぜ正しいといえるのですか?
  • メッシュ・サイズはどれくらいで、なんでそのサイズにしたのですか?
  • その材料の定数を教えてもらえませんか?
  • その材料で、なんで壊れないと分かったのですか?
  • その部品のどこが固定されていて、どこにどんな力が掛かったのですか?
  • 変形倍率は何倍ですか?

などなどです。

 設計レビューに参加し、解析結果を見ている人たちが、すべて上のような疑問の答えを持っているとは到底思えません。解析を使って発表している人も、それを評価している人も、「何となく」解析して、「何となく」評価している空気を感じることが、とても多いのです。もちろん、すべての会社がそういう設計レビューをしているというわけではありませんよ。

僕の考える 最近のCAE事情

 ちょっと話は本筋からそれますが、最近の設計者向けCAE事情について、僕が考えていることをお話ししておこうと思います。設計者向けCAEがどんどん現場に広がってきた理由として、次の3つがあると考えています。

1つ目の理由

 学校で解析技術の教育が行われていることです。工業系の専門学校や大学では、ほとんど有限要素法を習うようです。私事で恐縮ですが、僕の長男も工業大学ですが、当たり前のように有限要素法を材料力学や構造力学とセットで習っているそうです。またある大学では、CAD/CAM/CAE統合型のCADを数十台規模で導入し、3次元CADで設計を行い、そのモデルを解析し、CAMでそのモデルを削り出して実体化して、それを実験で破壊する、というすべてのプロセスを1年通期で行っているとのことです。

2つ目の理由

 コンピュータのコスト・パフォーマンスが飛躍的に高まったことです。インテルの名誉会長 ムーア氏によれば、「トランジスタの集積度数は、18カ月ごとで倍になる」ということです。有名なムーアの法則ですね。トランジスタの集積度数=コンピュータの演算速度ではないですが、ほぼ等しいといっていいでしょう。この法則はいまでも通用しています。昔なら数億円したスーパー・コンピュータに匹敵する性能が、いまでは数十万円で手に入るのです。解析は多くのコンピュータ資源を使います。それが高価だった昔は、解析モデルを考えに考え抜いて作成して、コンピュータの使用量(使用“料”も)を気にしながら、恐る恐る解析しました。それがいまではノートパソコンでカンタンにできるようになりました。

3つ目の理由

 設計者をターゲットにした設計者向けの解析ソフト(CAE)が多数登場しているということでしょう。ほとんどの設定を自動で行って解析ができ、数クリックで応力図や変形図が描けてしまいます。カンタンに解析できるようにさまざまな工夫が凝らされており、結果の評価もできるだけ間違わないように工夫されています。

 このような理由で、誰もがカンタンに解析を行える環境が整っています。しかしながら、ブラック・ボックスとして設計者向けCAEを使うというのは、僕はとっても危険だと思っています。

 プリセットされた材料定数に、プリセットされたメッシュ・サイズ。拘束自由度の分からない固定条件に、面にベッタリと掛ける荷重。そして数字の大小だけで判定される最大応力……。ホントにそれでいいのでしょうか? なんかモヤモヤしませんか? 材料力学を習うと、解析結果をキッチリと評価できるようになりますよ。

材料力学とは、座学である

 解析ソフトというものは、ピアノや車とよく似ています。ピアノは買っただけでは、曲を奏でることはできません。楽譜を読むことを習い、運指を習い、訓練を積み重ねてやっと曲を奏でることができます。車だって、公道で運転できるようになるプロセスは同じです。交通規則で学科を習い、実技で運転を練習して、さらに試験に合格して、やっと免許が交付されるのです。楽譜を読むことを習うこと、交通規則を学科で習うこと。こういうことを一般的に「座学」といいます。

 戦闘機のパイロットは座学として流体力学や天文学(主に星座)を学ぶそうです。流体力学は戦闘機の特性を知り、緊急時に機体を立て直すための基礎知識として、星座は、計器がすべて故障した場合に、星座を頼りに飛ぶためだそうです。つまり流体力学や天文学を座学として学ぶわけです。材料力学は“設計のための座学”といえるのではないでしょうか。

 一口に「応力」といっても、「成分応力」「ミーゼス応力」「主応力」などいろいろあります。(次回に続く

Profile

栗崎 彰(くりさき あきら)

1958年生まれ。キャドラボ 取締役。1983年より24年間、構造解析に従事。I-DEASの開発元である旧 SDRC 日本支社、CATIAの開発元であるダッソー・システムズを経て現在に至る。多くの企業で3次元CADによる設計プロセス改革コンサルティングや、設計者解析の導入支援を行う。特に設計者のための講座「解析工房」が人気。解析における最適なメッシュ・サイズを決定するための「OK法」を共同研究で模索中。



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