ヤング率とポアソン比は応力を予測するために、降伏応力は予測した応力で部品が壊れるか壊れないか判定するために必要なものだ。
前回は材料の性質を表す大切な定数であるヤング率とポアソン比の2つについて解説しました。今回、さらにもう1つ、大切な定数が登場します。
それでは、早速スタートです。
前回の最後に、ポアソン比の解説をしました。ポアソン比は、ヤング率と並び、材料の性質を表すための大切な定数です。ポアソン比とは“ひずみとひずみの”比です。ひずみには単位がありませんので、ポアソン比にもまた単位がありません。
ポアソン比は金属材料だと、だいたい0.3くらいで、ゴムなどの材料だと、0.4から0.5くらいの値となります。そして必ず正の値となります。つまり、「引っ張ると細くなる」ということです。
引っ張ると直径が膨らむ棒なんて、ありませんよね。ここでは「負のポアソン比を持つ物質はない」ということにしておいてください。実は、特殊な構造を持つ材料で、まれに負のポアソン比が存在しますが、一般的には使用しないでしょう。
ところで、ポアソン比の取り得る値の範囲は、理論的には次のようになります。
下限の-1は、縦ひずみ=横ひずみということになり、カタチが一切変化しないことを意味します。
上限の0.5は、体積が一定であることを意味します。一般的には圧縮されれば体積は減りますが、ポアソン比が0.5に近い材料は圧縮されても体積は減りません。
よって実用的には、ポアソン比の取り得る値の変位は、次のようになります。
実際、ゴムなどは0.5に近いポアソン比となります。
0(ゼロ)に近いポアソン比を持つ材料には、コルクがあります。コルクは圧縮したり、伸ばしたりしても、横方向の変形はほとんどありません。消しゴムなら、肉眼で横方向の変形が見えますが。そしてコルクといえば、ワインの栓です。押し込むときは、直径方向に膨らまないので、シッカリと栓をすることができます。そしてそれは引き抜くときまで持続します。誰がワインの栓にコルクという材料を選んだのか、僕はそこまで知りませんが、先人の知恵には感心することしきりです。
材料の結晶構造をのぞいてみた
ちょっとだけ難しい説明になりますが、多くの金属の結晶構造、つまり結晶の並び方は、「六方最密充填構造」または「面心立方格子構造」というもので、球状のものを積み上げたときに、最もギッシリと詰まる、つまり密度の高い構造になっています。ようするに「硬い」わけです。しかし本当に金属の結晶は規則正しく並んでいるのでしょうか。金属をどんどんズームインしていくムービーを見つけました。自分の目で確かめてみましょう。
同じシリーズで、金属ではないものもあります。こちらもぜひご覧になってください。
これまで、ヤング率(縦弾性係数)と横弾性係数、そしてポアソン比という材料の性質を特徴付ける定数について解説してきました。実はこの3つの定数には密接な関係があります。その関係とは、以下の式で表されます。
つまりヤング率、横弾性係数、ポアソン比のどれか2つが分かっていれば、残りの1つは計算できることになります。
解析を行うときに、これらの材料定数は必ず入力しなければならない値となります。解析アプリケーションにもよりますが、設計者向けのアプリケーションでは、だいたい、ヤング率とポアソン比を入力するようになっています。
横弾性係数とポアソン比を入力したっていいし、ヤング率と横弾性係数を入力したっていいのに、なんでヤング率とポアソン比なんだろうと思ったことがありました。以下は僕自身を納得させるための詭弁(きべん)かもしれませんが……、なぜ解析アプリケーションではヤング率とポアソン比を入力するのかを説明しておきます。
ヤング率と横弾性係数は1桁(けた)ほど異なります。そして単位系によっては3桁から6桁くらいの数字になります。例えば、「123456」と「12345」のような感じです。さっと見ただけでは、同じような数字に見えてしまいますよね。解析アプリケーションにこのような値を入力するとき、まずそれを読み取る、次に入力する、といった2段階の人的行為が発生します。見た感じで同じような数字は、入力ミスを起こしやすくする原因になります。
ところがヤング率とポアソン比を入力する、ということにしておけば、ヤング率は3から4桁の数字で、ポアソン比は0.3前後。例えば「1234」と「0.31」のような感じです。見た目でハッキリと違いが分かりますね。その分、入力ミスもグッと減らすことができるハズです。しかもポアソン比は、よっぽど特殊な材料でない限り0.3前後と相場は決まっています。
以上のような理由で、多くの解析アプリケーションの材料定数はヤング率とポアソン比を入力するようになっているのかも、と僕は考えています。
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