TRONSHOW2007の見どころは、8/16bitマイコン対応のリアルタイムOS「μT-Kernel」。T-Kernelとの違いとは? どんな可能性を秘めているのか?
2006年12月1日、坂村健教授率いるT-Engineフォーラムは8/16bitマイコンに対応したリアルタイムOS「μT-Kernel」の開発に成功したと発表した。小型組み込み機器がターゲットで、エアコン、電話機、照明機器、自動車用のメーターなどの分野での活用を見込んでいる。
μT-Kernelは、MMU(Memory Management Unit)を持たないCPU/マイコンでの使用を想定しており、少ないROM/RAMでの動作を実現している。また、システムコールや型定義をT-Kernelと原則共通にすることで、T-KernelやMP T-Kernelとの互換性を維持している。この互換性により、ターゲットボードの完成を待たずに市販のT-Engine+T-Kernel環境でμT-Kernelを先行開発できるという。
さらに、小規模システム向けに不要な機能(サブシステム管理機能やタスク例外機能など)を仕様から削除した。また、構造体のメンバの見直しや非使用の関数をリンクの段階で自動的に取り外す仕組みを用意するなど、省資源化を図っている。
一見すると「T-Kernelから機能をそぎ落としただけ」という印象を受けるが、新たにメモリ領域の引き渡し機能が拡張されている。これによりメモリの有効活用、動的確保のオーバーヘッド削減が図れるとのこと。この機能拡張は「スタック領域を自由に指定できるようにしたい」というメーカーからの声を反映したものであるという。
μITRON4.0 | T-Kernel | μT-Kernel | |
---|---|---|---|
リファレンスコード | なし | あり | あり |
ソースコードの一本化 | なし | あり | なし |
メモリ保護機能 | あり | あり(注1) | なし |
デバイスドライバインターフェイス | なし | あり | あり |
サブシステム | なし | あり | なし |
TCP/IP | なし | あり(開発中)(注2) | なし |
ファイルシステム | なし | あり(注1) | なし |
セキュリティ | なし | あり | なし |
オブジェクト生成 | 静的および動的 | 動的 | 動的 |
データキュー | あり | なし | なし |
オブジェクト待ちの永久待ち、ポーリング、タイムアウトのシステムコール | 別システムコール | 同一システムコール | 同一システムコール |
セマフォの資源獲得/開放単位 | 1 | 複数 | 複数 |
タスク例外 | あり | あり | なし |
オーバーランハンドラ | あり | なし | なし |
タスクイベント | なし | あり | なし |
時分割実行 | なし | あり | なし |
待ち禁止 | なし | あり | なし |
システムメモリ管理 | なし | あり | なし |
アドレス空間管理 | なし | あり | なし |
I/Oポートアクセス | なし | あり | なし |
省電力 | なし | あり | なし |
デバッガサポート | なし | あり | あり |
モニタデバッガ | なし | あり(T-Monitor) | なし |
μITRON4.0とT-Kernelとの違い 出典:TRONSHOW2007 座学資料より引用 |
また、μT-Kernelを利用するには「μT-License」という専用のライセンス契約を結ぶ必要がある。以下にμT-LicenseとT-Licenseの違いを示す。
μT-License | T-License | |
---|---|---|
ライセンス料 | 無償 | 無償 |
リファレンスコードの再配布 | 原則不可(注1) | 原則不可(注2) |
リファレンスコードの改変 | 可 | 可 |
改変版コード(派生物)の配布 | 可 | 不可 |
派生物の再改変と配布 | 可 | − |
派生物の配布規定の変更 | 可 | − |
表示義務 | あり(注3) | あり |
適合性確認 | 必要 | − |
μT-LicenseとT-Licenseの違い |
無償で提供されるリファレンスコードは、現在T-EngineフォーラムのA会員にのみ公開されている。2007年4月ごろに一般会員へも公開予定。
μT-Licenseは、T-Licenseに比べて規制が緩和され自由度が高くなっているが、改変した独自のμT-Kernelを「μT-Kernel準拠」として配布するには、適合性(リファレンスコードと同じ動作)検査をクリアする必要がある。そのため、T-Engineフォーラムではテストスイートを用意している。これは、リファレンスで定めているAPIや動作などの仕様と異なる「亜流のμT-Kernel」の出現を防ぐために行っているとのこと。
同展示会では、μT-Kernelの仕様策定などを行う「μT-Kernel Sub Working Group」に参加している企業(注)がμT-Kernelに対応した評価ボードや開発環境などを展示していた。
富士通は、μT-Kernel準拠の「SOFTUNE μT-REALOS」を実装した評価ボード「T-Engine Appliance Ansel-Tea/FR」による音楽再生デモを行った。PCに保存されている音楽データをLAN経由で転送し、評価ボードで再生するというもの。また、開発環境に関してはシステムプログラムの構築ツール「μT-REALOS コンフィグレータ」とシステムプログラムの解析ツール「SOFTUNE REALOS アナライザ」を用意している。2007年春ごろに発売予定。
NECエレクトロニクスは、32bitマイクロコントローラ「V850E/MA3」を搭載したμT-EngineボードによるμT-Kernel開発環境を参考出展した。また、ITRON準拠のRX850シリーズで実績のあるデバッグ環境「システム・パフォーマンス・アナライザ AZ850」「タスク・デバッガ RD850」をμT-Kernelでも提供する予定。
ルネサステクノロジは、μT-Kernelを組み込んだ「M16C/62P Starter Kit」の展示を行った。同評価ボードはRAMが31kbytes、フラッシュROMが512Mbytes。
関連リンク: | |
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⇒ | T-Engineフォーラム |
⇒ | トロン協会 |
⇒ | 富士通 |
⇒ | Ansel-Tea/FR |
⇒ | NECエレクトロニクス |
⇒ | V850E/MA3 |
⇒ | システム・パフォーマンス・アナライザ AZ850 |
⇒ | タスク・デバッガ RD850 |
⇒ | ルネサステクノロジ |
⇒ | M16C/62P Starter Kit |
T-Engineフォーラムは、2006年12月にT-Kernel開発でEclipseが利用可能になったと発表。同展示会の開催に合わせてμT-Kernel開発用のプラグインを参考出展した。同プラグインを使用することで、仕様書を参照することなくシステムコール呼び出しのソースを自動生成できるという。
また、京都マイクロコンピュータの「PARTNER-Jet」、富士通の「WideStudio for T-Engine」、Java言語で開発可能なアプリックスの「JBlend[nano] for T-Engine」といった開発環境が展示されていた。
関連リンク: | |
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⇒ | Eclipse |
⇒ | 京都マイクロコンピュータ |
⇒ | PARTNER-Jet |
⇒ | WideStudio for T-Engine |
⇒ | アプリックス |
⇒ | JBlend[nano] for T-Engine |
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