ある日、社長は“プロセス改善”と叫んだ組み込み開発の混沌から抜け出そう(3)(3/3 ページ)

» 2005年11月30日 00時00分 公開
[宮崎 裕明 横河ディジタルコンピュータ,@IT MONOist]
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分かってほしい、現場をあずかる開発者たちの思い

 最後に現場からスタートしたボトムアップの例を紹介しましょう。「このままではダメだ」と最初に声を上げたのは、現場の一部の開発者でした。しかし、声には出さなくとも30人ほどいるほかのメンバーも、これではまずいと感じていたようでした。そこで、大変なのは承知のうえで、自分たちで開発の進め方を見直してみようということになったそうです。



開発担当者 「最初の数カ月は、手探り状態で勉強したり、問題の洗い出しをしたり、自分たちが何をすればいいのかを見つける作業を行いました。しかし、時間はかかるし、まとまらないし、難しいし、想像以上に大変でした。特に、リーダーは大変だったと思いますよ」

開発という本業をしながら、自ら道を開いていこうという努力は、並大抵ではないでしょうね。

開発担当者 「そのうちに、水面下でボランティアのようにやっているより、会社にこの活動を認識してもらった方がいいということになり、上層部に対してプレゼンテーションを行いました。自分たちが現在どのような状況で開発しているのか、どんな問題があると考えているのか。そして、業務として改善活動をさせてほしいと」

こういうときに必ず問われるのは、「いつ、どんな効果が出るのか」ですよね。もっというなら「開発業務に支障はないのか」とか。

開発担当者 「残念ながらその段階では、胸を張っていつごろ効果が出るとはいえない状態でした。冷めた頭で考えれば、経営者の視点ならば当然の質問ですよね。君たちの活動は素晴らしい、頑張れなんて、簡単にいってもらえるはずはない」

では、水面下で続けるしかない?

開発担当者 「開発業務だけでもあふれている状態で、やっていることすら認めてもらえない活動を続けるのは、精神的にも、体力的にも無理です。でも私たちの現場は、最初に計画を立てても割り込みの作業が多くて、計画の原形をとどめないような状態です。このまま、だましだまし続けていても、もうどうにもならないと思うんです。辞めていく人も出てきたし、製品の品質も下がっている。完全なテストも済んでいないのに出荷せざるを得ないという、開発者にとっては不本意な事態だって発生している。どこかで変えないと」



 現場主導で改善に着手するのは、自主的な活動で理想的なようにみえますが、そこには別の問題が立ちはだかります。活動を認められなければ、今後ツールやインフラの整備が必要になっても、予算が取れないということです。そもそも開発業務が忙しいという大前提があるので、人手を掛けて予算不足を補うのは不可能でしょう。



開発担当者 「いまは休止状態です。あきらめたわけではありませんが、まず上層部に対するアピール戦略を考えなければなりませんね。何か少しでも効果を見せて納得させたいけれど、そのためには活動が必要だし、活動するには認めてもらわないと無理だし……鶏と卵のような感じです。どうすればいいんでしょうね」



 会社のトップが号令を掛けても、現場に合わない。現場が頑張ろうと動きだしても、成果の見えにくい活動は理解してもらえない。いくつかのエピソードを見てきましたが、「開発プロセスを改善する」といっても、万人に効く方法というのはなさそうです。

 いろいろな取り組み方はあるにせよ、開発のプロセスを改善していく過程には、我慢する時期があるというのは共通といえそうです。一時的に生産性が下がったり、最初は現場の負荷が増えてでも、改善していこうという覚悟が必要です。その覚悟ができないからといって、見て見ぬふりをしていても、いずれ立ち行かない事態がやって来るとしたら、さっさと治療に着手する方がよいでしょう。万人に効く方法はないとは、裏を返せば答えはたくさんあるということにはならないでしょうか。

 現在、組み込みソフトウェア開発の現場は、曲がり角に立たされていることは確かです。大変だけれど、勇気を持って曲がっていきたいものです。


 さて最後に、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)が行った「2005年版組込みソフトウェア産業実態調査」から、経営者、事業者に対する調査結果の1つを紹介します。

 組み込みソフトウェア技術者、および組み込みソフトウェア開発管理者を採用する場合に重要と考える要素(A〜N)を、それぞれ「非常に重要、重要、それほど重要でない、重要でない」から1つ選択するというものです。

A.職務経歴

B.資格

C.学歴

D.人柄

E.語学力

F.マネジメント能力

G.コミュニケーション能力

H.プログラミング能力

I.ドキュメント能力

J.アプリケーションの知識

K.専門技術知識

L.組み込みソフトの開発経験

M.ソフト一般の開発経験

N.ハードの開発経験

 気になる結果ですが、技術者について「非常に重要」なのは、トップが「コミュニケーション能力」、2番目が「プログラミング能力」。非常に重要、重要を合わせると、コミュニケーション能力は95%にも達します。開発管理者について「非常に重要」なのは、トップが「コミュニケーション能力」、2番目が「マネジメント能力」です。どうやら「コミュニケーション能力」は、いま組み込み業界に求められる重要なスキルのようですね。

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