転職検討中の読者諸氏に、現在の求人動向を統計情報と転職現場の実情という定量と定性の2側面からレポートする
「組込みソフトウェア産業実態調査報告書」という資料がある。これは、経済産業省が国内組み込みソフトウェア産業の実態を把握するために2003年度から毎年行っているもので、2005年版が本年6月に発表された。独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)のサイトからダウンロードできるので参照いただきたい。
これによると、国内組み込みソフトウェアエンジニア人口は約17万5000人。対して、約7万人のエンジニアが不足している。両者の合計24万5000人を必要人口とすると、そのうち実に30%が不足しているという計算になる(グラフ1)。
規模感を示すために、ITエンジニアを引き合いに出してみよう。平成12年の国勢調査によると、ITエンジニア人口(情報通信業に従事する、専門的・技術的職業従事者数)は、約73万人。組み込みソフトウェアエンジニア人口規模は、その約1/4ということになる。
「足りない」とされている7万人の内訳を見てみよう。「足りない」=中途採用意欲が旺盛な職種と見ていいだろう。同調査のうち、経営者・事業責任者向けに「3年後の組み込みソフトウェア技術者の人員計画」という設問がある。その結果がグラフ2だ。
どの職種も「削減する」という回答は少なく、「企画・要求分析・仕様設計」「システム設計」「ソフトウェア設計」の3職種は、増員計画が50%を上回っている。その中で、「ソフトウェア設計」は増員計画が多い半面、「10%以上削減する」という回答も10%近くあるのが特徴。コーディング業務のアウトソーシング化を進め、社内人員は削減するという会社が多いのではないだろうか。「テスト」「運用・保守・サポート」は現状維持が過半であり、組み込みソフトウェア開発会社が上流工程の増員を計画している傾向がうかがえる。上流工程に携わっている組み込みエンジニアにとっては、まさに売り手市場といえる。
参考までに、各職種の現在の人数比率を以下に示す(グラフ3)。それぞれの比率に17万5000を掛けた数値が、その職種人口となる。
同報告書での職種の定義は次のとおり。 | |
---|---|
システム設計: | ハード/ソフトウェアを含むシステムの設計。システム設計に基づき、組み込みソフトウェアの要求仕様を設計 |
ソフトウェア設計: | 要求仕様に基づき、組み込みソフトウェアの構造を設計。ソフトウェアの構造に基づき、組み込みソフトウェアのコーディングを行う |
さて、この売り手市場はいつまで続くのだろうか? 同報告書には、これから先の求人予測まではレポートされていない。だが、次の3点から、少なくとも3年以上は組み込みソフトウェアエンジニアへの求人は底堅いとみる。
ただし、中途採用市場(新卒採用もしかり)は景気変動がダイレクトに影響するため、景気いかんによっては求人数に増減はある。さらに、自動車、家電、精密機器といった業界ごとに、求人動向には違いがある。しかし長期的には組み込みソフトウェアエンジニアにとっては売り手市場が続くはずだ。
もちろん、売り手市場だからといって、望めば必ず転職できるというわけではない。続いて、組み込みソフトウェアエンジニアを採用するに当たって重視される点を、同報告書から見てみよう(グラフ4)。
「非常に重要」と「重要」を足し合わせた上位5要素のうち、なんと3要素は非技術的な要素である「コミュニケーション能力」「ドキュメント能力」「人柄」という結果だ。組み込みソフトウェアのボリュームがけた違いに膨大になり、その開発は属人的な業務ではなく、組織力が重要となっている証しであろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.