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環境に与える影響を定量的に評価する「ライフサイクルアセスメント」とは?今こそ知りたい電池のあれこれ(12)(2/3 ページ)

電池やその搭載製品の環境影響を考えるための指標として「LCA」(ライフサイクルアセスメント)という言葉を、最近何かと目にする機会が多くなってきました。LCAと聞いて「製品のライフサイクルで考えたときのCO2排出量の話」といった印象を抱かれる方も少なくないかと思います。しかし、その理解は厳密にいえば不正確です。

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(1)目的および調査範囲の設定

 まずは、実施理由(何のためにLCAを調査するのか)、用途(調査結果をどのように利用するのか)、情報提供先(調査結果を誰に伝えるのか)という調査の「目的」を明確化させます。そして、今回実施しようとする調査はどのように行うのが適切なのか、目的と照らし合わせながら「調査範囲の設定」をします。

 例えば、社内検討として実施する場合と対外的に発表する場合、あるいは製品単独の調査をする場合と複数製品の環境影響比較をする場合では、調査の「目的」および適切な「調査範囲の設定」が大きく異なってきます。また、環境影響評価を全般的に確認するのか、地球温暖化影響に絞って「LC-CO2」のみを評価するのかによっても「調査範囲の設定」が変わってくるでしょう。

 「情報提供先」(調査結果を誰に伝えるのか)の重要性は他項目と比べるとイメージしづらいかもしれませんが、LCAは報告を受ける対象を誰にするかによって調査方法が大きく変わります。

 自社内のみでの利用が目的ならば、サプライチェーンの隅々まで意識し、原料納入業者の違い1つも明確にすることが求められます。一方、外部に対して調査結果を公表する場合は、企業内の機密情報保持を鑑み、独自技術の詳細に結び付く内容を公にせず、業界平均等の一般的な情報で代用するなどの工夫が必要なこともあります。

 「調査範囲の設定」で明確にすべき項目も多岐にわたります。ライフサイクルにおける資源の採取、製造、使用、廃棄といった各プロセスの区分けやその領域に対応したデータ要件などの設定の仕方は評価結果に大きな影響を与えます。

 複数製品の比較評価をする上で特に重要なのは「製品の機能」です。複数製品の比較を行う場合、一般的には評価対象同士の機能が本質的に等しいものとして扱います

 例えば「年代物のクラシックカー」と「先端技術を搭載した最新モデル」の比較をする場合は「クルマとしての走行」という本質的に同等な機能を考慮します。最新モデルに高度な運転アシスト機能や通信を利用したシステムアップデート機能がついていたとしても、クラシックカーにこれらの機能がない場合は評価中で考慮されません。もちろん例外もありますが、各製品についてどの機能が評価に考慮されているのかは、最終的に報告書の中で明確に示す必要があります。


複数製品の比較を行う場合、一般的には評価対象同士の機能が本質的に等しいものとして扱います[クリックで拡大]

 LCAの調査範囲を決定するには、特定の機能や性能特性を明らかにすることが重要です。評価する製品の主要な機能をある単位で定量化したものを「機能単位」といいます。設定する機能単位は調査の目的や範囲に即している必要があります。

 機能単位は物理量、時間値、品質値で構成されます。物理量は主な機能に直結する値ですし、時間値も製品寿命や使用期間など比較的イメージしやすい値かと思います。これに対し、定量化し難い「品質」に関する機能要件をどのように考慮するかというのは難しい問題です。

 例えば、東京−大阪間の移動手段の環境負荷を比較するとします。クルマと新幹線のどちらの環境負荷が少ないかという話であれば、それぞれの車体製造に要する資源量、耐用年数、移動距離に対する燃料消費量などから比較することが可能でしょう。

 このとき「移動距離に対する燃料消費量」で考えるならば、徒歩や自転車の方がクルマや新幹線よりも環境負荷が少ないといえるかもしれません。しかし、その結論に納得できる人はあまりいないでしょう。「東京−大阪間の移動手段」の「品質機能」として新幹線と徒歩を比べるまでもないことが明らかなように、「機能の質」を考慮することで比較対象が制限されることがあります

 一見当たり前のように感じるかもしれませんが、何か1つの要素に注目することで、その他の要素の影響を見落としてしまうというのは往々にしてある話です。製品比較を行う際は、どの品質要件が不可欠なもので、どれが必要でないものなのか、あらかじめ検討しておくことが重要です。

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