FDAの“アメ”と“ムチ”が促す米国の生成AI搭載医療機器開発競争:海外医療技術トレンド(136)(1/3 ページ)

本連載第122回と第127回で、米国ビッグテック企業がリードするメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)のヘルステクノロジーエコシステムを取り上げてきた。今回は、米国食品医薬品局(FDA)が、生成AI(人工知能)搭載医療機器の開発競争を促すための“アメ”と“ムチ”となっている規制やイノベーション促進策について紹介する。

» 2026年10月16日 07時00分 公開
[笹原英司,MONOist]

 本連載第122回、第127回で、米国ビッグテック企業がリードするメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)のヘルステクノロジーエコシステムを取り上げてきた。今回は、米国食品医薬品局(FDA)が、生成AI(人工知能)搭載医療機器の開発競争を促すための“アメ”と“ムチ”となっている規制やイノベーション促進策について紹介する。

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FDAが生成AI搭載医療機器規制に関するディスカッションペーパーを公表

 2026年に入り米国では、FDAの規制対象外となる健康/ウェルネス分野向けに、「ChatGPT Health」(OpenAI、関連情報)、「Claude for Healthcare」(Anthropic、関連情報)、「Health AI Assistant」(Amazon.com、関連情報)、「Copilot Health」(Microsoft AI、関連情報)といった生成AI搭載サービスが続々と投入されてきた。

 健康/ウェルネス分野で事業を展開するビッグテック企業の間では、従来のクラウドネイティブな開発/運用手法(DevOps)を大規模言語モデル(LLM)特有の運用手法(LLMOps)へと拡張、発展させている。これにより、ベースモデルの活用や評価/運用プロセスの自動化と効率化が進み、AIモデルの性能向上だけでなく、開発/運用コストの明確な削減効果が得られるようになった。

 加えて各社は、前回触れたAI部品表(AIBOM)を、トータル製品ライフサイクル(TPLC)やLLMOpsのフレームワークに組み込み、自動化されたCI/CD(継続的統合/継続的デプロイ)パイプラインの中でSPDX 3.0.1やCycloneDXなどの国際標準フォーマットに基づくAIBOMを自動生成する体制を整えている。参考までに、図1は、CycloneDXを推進するOWASPにおけるAIBOM中心のリスク評価フローである。

図1 図1 OWASPにおけるAIBOM中心のリスク評価フロー[クリックで拡大] 出所:OWASP GenAI Project「From Visibility to Action Operationalizing AI Supply Chain Security with AIBOM」(2026年3月27日)を基に筆者作成

 このような流れの中、医療機器開発企業では、自社で一から数十億〜数百億パラメーターのモデルを開発、学習させる必要性が薄れつつある。高度かつ廉価になった非医療機器向けの共通AIインフラを活用しつつ、医療用途に向けたチューニングやガードレールの設置を行うことにより、FDA承認を目指す効率的な開発アプローチが可能となってきた。さらに、FDAが導入と運用を義務化しているソフトウェア部品表(SBOM)をAIBOMへ拡張することにより、医療機器審査時の照会リスク低減や、市販後安全対策業務の効率化と自動化を実現する環境が整いつつある。

 2026年8月18日、FDA医療機器・放射線保健センター(CDRH)傘下のデジタルヘルス・センター・オブ・エクセレンス(DHCoE)は、「生成AI搭載医療機器の規制における考慮事項:ディスカッションペーパーおよび意見募集」(関連情報)と題する文書を公開し、意見募集を開始した(募集期間:2026年10月19日まで)。

 生成AI搭載医療機器は、医療環境や患者ケアに大きな変革をもたらす可能性を秘めている一方、従来のソフトウェアや一般的なAI搭載医療機器とは異なる独自のリスクを伴う可能性がある。本ディスカッションペーパーは、こうしたリスクなどの課題についてステークホルダーと議論を深め、生成AI搭載医療機器に適した規制手法の在り方を前進させることを目的としている。

 生成AI搭載医療機器の特徴として、複数の「機能」が含まれているケースが多い。「機能」とは、その製品の明確な目的であり、製品の意図された使用目的、あるいはその使用目的の一部を指すことがある。例えば、データの分析を意図された使用目的とする製品には、「分析」という一つの機能がある一方で、データの保存、転送および分析を意図された使用目的とする製品には、(1)保存、(2)転送、(3)分析という3つの機能が存在する。

 FDAは、「複合機能機器製品:方針と考慮事項 - 業界および食品医薬品局向けガイダンス」(2020年7月29日、関連情報)の中で、複合機能製品に対するFDAの規制上の審査/評価における原則、市販前審査の適用方針および政策を明示し、これらの政策の適用例を提供している。

FDAが検討する生成AI搭載ソフトウェア機能のリスク評価フレームワーク

 今回公開された文書では、生成AI搭載ソフトウェア機能のリスクについて整合性のある検討を支援するため、図2の通り、2軸で構成されたフレームワークを提示している。

図2 図2 生成AI搭載ソフトウェア機能の2軸フレームワーク[クリックで拡大] 出所:U.S. Food and Drug Administration (FDA)「Considerations for the Regulation of Generative AI-Enabled Medical Devices: Discussion Paper and Request for Feedback」(2026年8月18日)を基に筆者作成

 リスクの評価は、生成AI搭載デバイスに対する「リスクに応じた規制」を実現する上で極めて重要である。さらに、FDAによる規制監視の範囲、市販前申請で求められるデータ(エビデンス)要件、さらには市販後のモニタリングや変更管理に対する期待値に影響を与える可能性があるとしている。

 このフレームワークでは、一方の軸に「デバイスの活動(Activity、機能/自律性の度合い)」を、もう一方の軸に「間違ったデバイス出力を信頼した場合の帰結(Consequences、危害の重篤度)」を配置している。これにより、左下隅から右上角に向かってリスクが段階的に高まる勾配を示している。

 2軸のうち活動(Activity)軸では、ソフトウェア機能のリスクが、その機能がどれほど独立して行動を補佐/指示するか、あるいは行動を実行するかによって部分的に決まることを考慮している。非指示的な情報(例:将来の心血管イベントに関するリスクスコアなど)を提供する機能と、名目上は情報提供であっても行動を指示する機能(例:救急外来を受診すべきかどうかについて、患者向けに強く行動を促す推奨など)とでは、本質的に意味合いが異なる。また、医療従事者(HCP)の継続的な監督下で動作する機能と、完全自動(自律的)に動作する機能とでも、本質的に意味合いが異なる。

 他方、帰結(Consequences)軸では、ソフトウェア機能のリスクが、誤った出力を利用し、それを信頼した結果生じる危害の重篤度にも依存することを示している。例えば、軽微な症状に対する一般用医薬品(OTC医薬品)に関する誤った推奨と、インスリン投与量の調整に関する誤った推奨とでは、本質的に意味合いが異なる。

 FDAは、生成AI搭載デバイスのリスクを検討するための指針(ヒューリスティック)として、この2軸フレームワークを適用する可能性についてステークホルダーからのフィードバックを求めている。表1は、リスク評価の2軸フレームワークを含めて、FDAがフィードバックを求めるディスカッションの質問事項を整理したものである。

表1 表1 ディスカッションの質問事項[クリックで拡大] [クリックで拡大] 出所:U.S. Food and Drug Administration (FDA)「Considerations for the Regulation of Generative AI-Enabled Medical Devices: Discussion Paper and Request for Feedback」(2026年8月18日)を基に筆者作成
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