連邦政府封鎖明けからAI駆動型デジタルヘルス活用が急加速する米国の医療DX海外医療技術トレンド(127)(1/3 ページ)

米国保健福祉省を含む連邦政府機関は、2026会計年度予算案審議の影響を受けて2025年10月1日〜11月12日の間封鎖されたが、解除後にAIを巡る動きが加速している。

» 2026年01月16日 06時00分 公開
[笹原英司MONOist]

 米国保健福祉省(HHS)を含む連邦政府機関は、2026会計年度予算案審議の影響を受けて2025年10月1日〜11月12日の間封鎖されたが、解除後にAI(人工知能)を巡る動きが加速している。

⇒連載「海外医療技術トレンド」バックナンバー

ビッグテック企業が競い合う医療向け会話型AIエージェント

 本連載第122回で取り上げたHHS傘下のメディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)のデジタルヘルスエコシステムで、「患者向けアプリ - 会話型AIエージェント」に賛同したOpenAIは2026年1月7日、患者を対象とする健康/ウェルネス分野向けサービスの「ChatGPT Health」をリリースし(関連情報)、翌1月8日には、HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996:医療保険の携行性と責任に関する法律)に準拠した医療機関向けLLM(大規模言語モデル)サービスの「OpenAI for Healthcare」をリリースしたことを発表している(関連情報)。

 これらのAIサービスの基盤となるセキュアな医療データ接続インフラを提供しているのが、前述のCMSデジタルヘルスエコシステムで「データネットワーク」および「患者向けアプリ - 紙ベースの問診票廃止」に賛同しているb.well Connected Healthである(図1参照、関連情報)。

図1 図1 OpenAIに医療データ接続インフラを提供するb.well Connected Health[クリックで拡大] 出所:b.well Connected Health

 両社は、よりパーソナライズされ、コンテキストに即した健康関連の対話の提供によって、ユーザーが自身の医療の道のりをスムーズに進められるよう支援し、医療に関する質問に対して適切な回答を得られるようにすることを目的としている。OpenAIは、b.well Connected Healthが提供するHL7 FHIR US CoreベースのSDK for Health AIを利用して、接続された医療データを、LLMアプリケーション向けにクリーンかつ集約されたAI最適化入力データに変換する。b.well Connected Healthのネットワークは、全米220万以上の医療機関と320の医療保険者に対応しており、これを通じてユーザーは自身の医療記録や健康アプリのデータをChatGPTと安全に連携することができる。

 参考までに、今回のOpenAIとの提携に先立ち2025年10月20日、b.well Connected HealthはGoogleとパーソナライズされたヘルスケアを大規模に推進するために提携したことを発表している(関連情報)。この提携によって、人々が自身の健康データにアクセスし、理解し、活用する方法を変革する技術の進化を支援し、AIとパーソナライゼーションを通じて、消費者がより包括的でリアルタイムな健康状態の把握を可能にするとしている。Googleは、OpenAIと同様に、前述のCMSデジタルヘルスエコシステムで「患者向けアプリ - 会話型AIエージェント」に賛同しており、今後の動向が注目される。

 米国食品医薬品局(FDA)は、「ChatGPT Health」リリース前日の2026年1月6日、一般向け健康/ウェルネス機器と医療機器のカテゴリー分類に関連して、「一般向けウェルネス: 低リスク機器に関するポリシー――業界および米国食品医薬品局職員向けガイダンス」改定最終版を発行している(関連情報)。ここでFDAは、低リスクであることを前提条件として、特定の疾患に言及していても、それが健康的な生活習慣の範囲内であれば、医療機器の規制対象外とする旨の緩和措置を打ち出している。

ホワイトハウスがAIを活用した科学研究変革に関する大統領令を発表

 このような産業界の動きに対して、政府封鎖の解除後、連邦政府機関の間でもAIを巡る制度的仕組みづくりに向けた動きが活発化してきた。2025年11月24日、米国大統領のドナルド・J・トランプ氏は、大統領令第14363号「ジェネシス・ミッションの創設」に署名した(関連情報)。このミッションは、アポロ計画の遺産に触発されて、国立研究所のスーパーコンピュータと最高の科学者たちの力を結集し、科学研究の進め方を根本から変革しようとするものである。

 ジェネシス・ミッションでは、エネルギー省に対して、世界最高水準のスーパーコンピュータと独自のデータ資産を統合したクローズドループ型AI実験プラットフォームを構築し、科学的なファウンデーションモデルの生成やロボット研究所の運用を推進するよう求めている。またAIが、エネルギー、医療、製造など複数分野にまたがるデータセットから科学的知見を引き出せる可能性があることから、大統領科学技術補佐官(APST)に対して、政府全体のデータとインフラの統合を調整する役割が与えられており、国立科学財団(NSF)、国立標準技術研究所(NIST)、国立衛生研究所(NIH)などの主要な連邦政府機関との連携を主導するよう指示されている。大統領令では、重点分野として、バイオテクノロジー、重要材料、核分裂/核融合エネルギー、宇宙探査、量子情報科学、半導体およびマイクロエレクトロニクスなどを挙げている。その上で、エネルギー長官、APST、そしてAIおよび暗号資産担当特別顧問は、学術界や民間のイノベーターと連携し、ジェネシス・ミッションを支援/強化していく方針を打ち出している。

 本連載第123回で取り上げた欧州連合の科学技術戦略が、信頼性や透明性を軸とするフェデレーション型/分散協調型の基盤インフラ構築/運用を目指しているのに対し、米国は、「AI×スーパーコンピュータ×国家データ資産」の集中突破による科学技術/イノベーションの加速を目指している。EUも米国も、医療/ライフサイエンスを重点分野の一つに位置付けているが、実装に向けたアプローチをみると、それぞれの特徴が際立っている。

 その後2025年12月11日、トランプ大統領は、大統領令第14365号「人工知能に関する国家的な政策フレームワークの確立」に署名している(関連情報)。

 この大統領令は、AIに関する国家的な政策フレームワークの確立と、州ごとの規制の乱立を抑制することを目的としている。すでにカリフォルニア州では、2026年1月1日より、「フロンティアAI透明性法(TFAIA)」(関連情報)、「生成AI開示法」(関連情報、「コンパニオン・チャットボット法」(関連情報)といったAI関連州法が施行されるなど、州レベルのAI規制が先行しているが、大統領令第14365号は、AIモデルに過度な負担を課す州法の適用を制限し、連邦レベルでの一貫した基準の確立を目指すとしている。また、大統領令では、AIモデルの透明性や説明責任に関する全国的なルールを策定するとしているが、具体的な内容についてはこれから検討される予定である。さらに大統領令では、新興企業や中小企業の支援策として、複雑な州規制による参入障壁を取り除き、イノベーションを促進するとしており、これを保健福祉省およびその傘下の連邦政府機関がどのように実装していくかが注目される。

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