米国保健福祉省内レベルでは、FDAが、2025年1月17日に「2024-2027会計年度FDA 情報技術(IT)運用計画」を公表していた(関連情報、PDF)。表1は、この計画の中で、AI関連の戦略的イニシアチブを整理したものである。
表1 2024〜2027会計年度 FDA情報技術(IT)運用計画におけるAI関連の戦略的イニシアチブ[クリックで拡大] 出所:U.S. Food and Drug Administration「FDA Information Technology Operating Plan for Fiscal Years 2024 to 2027」(2025年1月17日)を基にヘルスケアクラウド研究会作成FDAは、「AIに関する大統領令の実装とガバナンス」の戦略的イニシアチブとして、「人工知能導入プログラム」「FDA業務におけるLLMの評価プログラム」「医療サプライチェーン強靭化のためのAI評価」、そして「新興技術」の戦略的イニシアチブとして、「AI生産性向上ツール」「RAPID(Real-World Application for Innovation and Development)V.1 Program III」「AskFDALabel」(FDAにおけるLLMの活用を促進するために開発された研究用フレームワーク)を設定していた。これらのイニシアチブを通して、FDAは、規制機関におけるAI導入の制度的正当性と実務的有効性の両立を目指してきた。
その後FDAは、2025年6月2日、科学的審査担当者向けにLLMを活用したツール「Elsa(Explainable Latent Structure Analysis)」を立ち上げたことを発表している(関連情報)。「Elsa」は、機械学習、因果推論、説明可能なAI(XAI)を組み合わせたLLMを利用して、化学構造、オミクスデータ、毒性試験結果などの構造化データから、毒性予測や因果関係の可視化、規制判断支援を行うツールである。例えば、有害事象を要約して安全性プロファイルの評価をサポートしたり、より迅速な添付文書の比較を行ったり、非臨床アプリケーション向けデータベース開発を支援するコードを生成したりできる。「Elsa」は、政府クラウドの高度なセキュリティ環境内に構築されており、科学レビュワー向けのパイロットプログラムで先行導入された。
さらに政府封鎖明けの2025年12月1日、FDAは、全ての職員向けにAIエージェント(Agentic AI)機能の導入を開始したことを発表している(関連情報)。FDAは、AIエージェントについて、特定の目標を達成するために計画立案/推論/段階的な実行を行う高度なAIシステムを指すとしている。これらのシステムには、人間による監督を含むガイドラインが組み込まれており、信頼性の高い結果を導くよう設計されている。今回発表したAIエージェントの導入により、複数のAIモデルを活用したより複雑なAIワークフローの構築が可能となり、多段階の業務支援が実現されるとともに、FDA職員はさらに高度な業務支援にAIを活用できるようになる。対象となる業務には、会議管理、承認前審査、審査の検証、市販後の監視、査察/コンプライアンス対応、管理業務などが含まれる。
FDAは、この導入の一環として、「エージェンティックAIチャレンジ」を2カ月間実施する予定である。職員が独自のAIエージェントソリューションを構築し、2026年1月開催の「FDAサイエンティフィック・コンピューティング・デー」で発表するとしている。
FDAを所管するHHSは2025年12月4日、AI戦略を発表した(関連情報)。同戦略は、効率性の向上、米国のイノベーションの促進、患者の健康成果の改善、そして「Make America Healthy Again」という目標の実現に向けて、先進技術を活用するというHHSのコミットメントを具現化するものであり、AIを連邦政府の職員が活用できるようにし、内部業務、研究、公衆衛生の各分野に統合していくという、同省の変革的な取り組みの次なるフェーズだとしている。
HHSのAI戦略では、以下の通り5つの柱を掲げている。
HHSのAI戦略は、部門縦割りの弊害を減らし、省全体としての一貫性と効率性を高めることを目的とした「OneHHS」アプローチを採用している。HHSは、疾病予防管理センター(CDC)、メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)、食品医薬品局(FDA)、国立衛生研究所(NIH)などを含む全ての部局が連携し、部門横断的で強固なAIインフラの構築に取り組むことによって、業務の効率化とサイバーセキュリティの強化を図ることを目指している。
他方、HHSを構成する各部門は、法的に許容される範囲内でデータやツール、インフラ、知見、成果を、広く一般と共有し、信頼性の向上、再現性の確保、そして「ゴールドスタンダード・サイエンス」の維持に努めるとしている。
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