FDAの“アメ”と“ムチ”が促す米国の生成AI搭載医療機器開発競争:海外医療技術トレンド(136)(2/3 ページ)

» 2026年10月16日 07時00分 公開
[笹原英司,MONOist]

コンピテンシーに基づく生成AI搭載医療機器の市販前リスク評価手法

 さらにFDAは、生成AI搭載機器の市販前評価において、新たな手法の導入を検討している。例えば、臨床医も生成AI搭載機器も、広範かつ多様な情報を読み込み、広範囲にわたる状況において、オープンエンドの回答を出力することができる。基礎知識および推論能力の構造化された評価(医師国家試験、専門医資格試験など)と、実際の臨床現場で段階的に自律性を高めながら行う指導下での実習(医学生の臨床実習、初期研修、後期研修/フェローシップなど)の組み合わせによって評価され、独立して診療を開始した後も継続的な評価が行われる。

 FDAは、このような臨床医の評価や資格認定の方法からヒントを得て、非臨床段階の医療機器ベンチマーキングと臨床確認から成る生成AI搭載機器の市場前評価のためのコンピテンシーに基づくアプローチを検討している。このアプローチの下では、単体のファウンデーションモデルや独立したその他のサブコンポーネントではなく、実際の臨床現場への導入向けに構成され、意図された「ユーザーが直接操作する最終機器」が評価対象となる。

 コンピテンシーに基づくアプローチは、機器の意図された使用目的に合わせてカスタマイズし、そのリスクに比例したものとすることが可能であり、図2の2軸フレームワークを活用することも考えられる。例えば、機器の機能や誤った出力を信頼した場合の影響度に応じて、ベンチマーキングを通じて評価される要素、テスト条件の範囲と難易度、臨床確認の程度を含め、必要とされる証拠の性質、厳密性および量を調整することが可能である。

 医療機器のベンチマーキングは、導入時または代表的な構成における機器が、その意図された使用目的において安全性と有効性の合理的な保証を裏付けるための臨床知識、分析能力、安全な動作、コミュニケーションおよび汎用性を実証できるかどうかを評価するものとして構想されている。これは、広範な入力に渡って機器の能力を特徴付けることができるテスト手法に基づいた、非臨床評価に対する拡張可能で効率性のよいアプローチとして位置付けられている。図3は、生成AI搭載医療機器のベンチマーク要素を整理したものである。

図3 図3 生成AI搭載医療機器のベンチマーク要素[クリックで拡大] [クリックで拡大] 出所:U.S. Food and Drug Administration (FDA)「Considerations for the Regulation of Generative AI-Enabled Medical Devices: Discussion Paper and Request for Feedback」(2026年8月18日)を基に筆者作成

 FDAは、コンピテンシーに基づくアプローチの下で実施される生成AI搭載医療機器のベンチマーキングにおいて、スポンサー(医療機器申請者)が機器の意図された使用目的およびリスクプロファイルに基づいてテスト範囲を定義し、評価方法をあらかじめ規定し、採点ルーブリックの説明と正当性の根拠を示し、該当する場合は有資格の専門判定者を特定し、さらに評価基準(アクセプタンス基準)をあらかじめ規定してその正当性を示すことを想定している。

 FDAは、スポンサーが予測可能かつ標準化され、自動化に適した方法でテストを実施するために、合成データ生成や仮想患者アバターを含むシミュレーションツールなどの手法を活用できる機会があると考えている。このようなインフラストラクチャは、初期評価だけでなく、時間の経過や変更に伴う機器性能の継続的な評価をもサポートできる可能性がある。特に、初期の機器ベンチマーキングは、その後の変更を評価する際の参照基準(レファレンス)として機能することが期待されるとしている。

 表2は、FDAが生成AI搭載医療機器ベンチマークへの適用を検討している一般原則を整理したものである。

表2 表2 FDAが生成AI搭載医療機器ベンチマークへの適用を検討している一般原則[クリックで拡大] [クリックで拡大] 出所:U.S. Food and Drug Administration (FDA)「Considerations for the Regulation of Generative AI-Enabled Medical Devices: Discussion Paper and Request for Feedback」(2026年8月18日)を基に筆者作成

生成AI搭載医療機器の臨床確認アプローチとRWD/合成データの活用

 FDAは、前述の生成AI搭載医療機器ベンチマーキングがいかに徹底的であったとしても、生成AI搭載機器が実際の臨床使用においてどのように動作するかを完全には証明できない可能性があると予測している。生成AI搭載医療機器は、構造化されたベンチマーキングでは捉えきれない方法で、ユーザー、ワークフローおよび患者集団と相互作用する。そのため、FDAは、生成AI搭載機器がリアルワールドまたは臨床を代表する条件下で、対象となる患者集団に対して意図した通りに動作するかどうかを判断するために、ベンチマーキングに加えて「臨床確認(Clinical Confirmation)」が必須のステップになり得ると検討している。

 その一方でFDAは、臨床確認が全てのケースにおいて「前向き(Prospective)臨床研究」を要求するわけではないという点も検討している。むしろスポンサー(申請者)は、機器が実際の、あるいは臨床を代表する使用環境において機能することを示すエビデンスを提供することが期待され、その証拠の種類や厳密性は、機器の意図された使用目的に合致し、かつそのリスクプロファイルに比例したもの(2軸のリスク評価フレームワークを活用する可能性を含む)となる。また、適切なアプローチは、機器が処理対象とする患者データの種類によっても異なる場合がある。

 表3は、FDAが実際のあるいは臨床を代表する使用環境において、生成AI搭載医療機器の性能に関するエビデンスを生成するために、適用を検討しているアプローチを整理したものである。

表3 表3 FDAが生成AI搭載医療機器の臨床確認への適用を検討しているアプローチ[クリックで拡大] [クリックで拡大] 出所:U.S. Food and Drug Administration (FDA)「Considerations for the Regulation of Generative AI-Enabled Medical Devices: Discussion Paper and Request for Feedback」(2026年8月18日)を基に筆者作成

 FDAは、上記のアプローチにリアルワールドデータ(RWD)/リアルワールドエビデンス(RWE)や米国国外で収集されたデータが含まれ得ることを認識しており、生成AI搭載機器の臨床確認において、このようなデータを利用する際に考慮すべき事項について意見を求めている。

 臨床確認のアプローチ全体を通じて、対象患者の各グループ間で機器の性能に差がないかを確認することが重要となる。特にRWDの収集が難しい小規模なグループについては、実際の患者データを基に作成した「合成データ」で評価を補完することが検討されている。ただし、このアプローチでは従来の有効性評価項目に基づく統計的検出力の設定が難しい可能性があるため、評価項目や必要なサンプルサイズをどのように決めるべきかについて、FDAはステークホルダーからの意見を求めるとしている。

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