AIは設計/製造の仕事をどう変えるのか。Autodeskは「Autodesk University 2026」のキーノートで、Fusionによる反復作業の削減や、部品の供給不足への対応を支援するエージェント型PLMを紹介した。さらに、製品や専門領域を横断して作業をつなぐ次世代Autodesk Assistantを披露。ツールの選択や操作から、解決すべき課題へと人の力を振り向ける将来像を示した。
米Autodesk(オートデスク)は2026年9月15〜17日(現地時間)、米国ラスベガスで、Design&Make(デザインと創造)のカンファレンス「Autodesk University 2026」(以下、AU 2026)を開催した。
初日のキーノートでは、同社の「業界別クラウド」と「Autodesk AI」を通じ、限られたリソースでより多くの成果を生み出すための取り組みを披露。個人の作業からチームの意思決定、組織や専門領域を横断する共同作業まで、AIによる支援を広げる方向性を示した。
本稿では、同社が公開した発表資料の情報も交えながら、キーノートで語られた設計/製造に関する注目トピックスを取り上げる。
冒頭、Autodesk 社長 兼 CEO(最高経営責任者)のアンドリュー・アナグノスト(Andrew Anagnost)氏は、デジタルの世界が指数関数的に進化する一方、現実世界で成果を生み出す能力は、資金、人材、リソースといった制約によって追い付いていないと指摘。「インテリジェンス(知的能力)だけでは、住宅やインフラを建設することも、製品を製造することもできない。それを実現するのは人間だ」(アナグノスト氏)と強調した。
Autodeskが目指すのは、AI(人工知能)や業界別クラウドを通じて人や組織の能力を引き出し、限られたリソースで従来以上の仕事を成し遂げられるようにすることだ。
その実現を支えるのが、建築/エンジニアリング/建設(AEC)向けの「Forma」、設計/製造向けの「Fusion」、メディア&エンターテインメント向けの「Flow」から成る3つの業界別クラウドである。プロジェクトのライフサイクル全体を通じて、人、プロセス、専門領域をつなぎ、AIを現実世界の成果に結び付けることを目指す。
そのためには、AIが実際の業務やプロジェクトの状況を理解する必要がある。アナグノスト氏は、これを支える「プロジェクトインテリジェンス」を、プロジェクトの中核であらゆるデータ、意思決定、専門領域を結び付け、進行とともに賢くなる“接続された頭脳”と表現した。
プロジェクトインテリジェンスは、相互につながったプロジェクトデータと、業界固有の業務や制約などの背景情報(コンテキスト)を基に、AIを活用して得られる知見だ。チームが現在の状況を理解し、次に何をすべきかを判断するために役立つ。
Autodesk AIと業界別クラウドは、現在利用しているツールと連携しながら、将来のツールへの段階的な移行も支えるという。アナグノスト氏は、こうした仕組みを個人、企業、さらにプロジェクトを取り巻くエコシステムへと広げることで、限られたリソースから生み出せる成果を増やす構想を示した。
まず、個々の設計者やエンジニアに対する支援の具体例として取り上げたのが、「Autodesk Fusion」におけるAI活用だ。単調な反復作業を減らし、専門性や創造性を生かせる、より価値の高い仕事に集中できるようにすることを狙う。
講演では、自律走行型ロボット芝刈り機を題材に、部品の組み付けから設計変更、加工準備へと進むワークフローを紹介。各工程で生じる反復作業を、AIがどのように支援するのかを示した。
既存部品のデータには、元の設計手順や拘束に関する情報が含まれていない場合がある。講演では、フロントバンパーを例に、こうした部品を組み付け、編集できる状態にするまでの支援を紹介した。「AutoAssemble」が接続箇所を見つけ、アセンブリ内の適切な位置と向きに配置する。続いて、「AutoTimeline」が編集に必要なフィーチャーを含むタイムラインを自動生成。Fusionは、その生成に当たって既存プロジェクト内の部品からも学習するという。
新しいバンパーが既存のフロントアセンブリに適合せず、ブラケットの交換が必要になった場面には、「Find Similar」を活用する。これは、過去に設計した類似部品を探し、置き換えを支援する機能だ。単純な部品番号検索や基本的な形状の認識にとどまらず、設計/製造分野に特化した同社の「業界基盤モデル」を用いて代替部品を特定する。
設計を終えた後は、加工準備へと移る。ここで紹介したのが、間もなくFusionで利用できるようになる「Automated CAM Programming(自動CAMプログラミング)」だ。フレーム加工に必要なツールパスを自動生成し、選択やクリックを繰り返す負担を減らす。さらに、ユーザーが生成結果を調整すると、Fusionがその操作を捉え、以後の出力をユーザーに合わせて調整するという。
個人の作業効率化に続いて紹介したのが、企業やチームの意思決定を支えるPLM(製品ライフサイクル管理)だ。アナグノスト氏は、「製造業では承認の遅さや使いにくいPLMツールによって、毎年数十億ドル規模の損失が生じている」と指摘。その上で、早期の状況把握と意思決定の迅速化を支援する、Fusionの新たなエージェント型PLM(Agentic PLM)体験をライブデモを交えて披露した。
ライブデモの題材は、ロボット芝刈り機の生産に必要なモーターの不足だ。サプライチェーン担当者役とエンジニアリングマネジャー役の2人が、AIアシスタント「Autodesk Assistant」を介して情報を共有し、影響の把握から代替品の検討、変更対応までを共同で進めていく。
対応の出発点となったのは、取引先から届いたモーター不足を知らせるメールだ。サプライチェーン担当者がこれをFusionのエージェント型PLMの作業環境に取り込むと、Autodesk Assistantが対応に必要な情報を抽出。同担当者は、共同作業用の「Canvases」にエンジニアリング担当者を招待し、問題の解決に向けた作業を開始した。
作業画面には、Fusionの製品データや影響を受ける可能性のあるアセンブリ、メール、対象モーターの仕様書などがまとめて提示される。Autodesk Assistantの影響分析で分かったのは、対象が1種類のモーターと1つのアセンブリで、モーターが2400個不足し、承認済みの代替品も存在しないという事実だ。
そこで、サプライチェーン担当者は、製品要件を満たす代替品を探すようAutodesk Assistantに指示。エンジニアリング担当者も、共有された問題や分析結果、提案内容から状況を把握し、変更が部品表(BOM)に与える影響をAutodesk Assistantに問い合わせた。
複数のシステムから情報を集め直す手間を減らし、両者が共通の情報を基に検討を進められるのが、この仕組みの特長だ。
ライブデモでは、Autodesk Assistantが提示した代替候補は3つあり、サプライチェーン担当者は供給面のリスクが最も低いものを推した。一方、エンジニアリング担当者は技術的な判断が必要だとし、BOMの内容を確認して検討を進めることとした。
ここで強調されたのが、“判断の主導権は人にある”という点だ。AIが情報の整理や候補の提示を担い、担当者は提案を踏まえてBOMに注釈を付けたり、内容を修正したりできる。こうした意思決定の過程は、対応の開始時点から履歴として記録されるという。
検討した変更を具体的な作業へつなぐ段階でも、Autodesk Assistantが役立つ。エンジニアリング担当者がBOMの更新を依頼すると、Autodesk Assistantが必要なボルト、ナット、ワッシャーを自動的に追加した。さらに、同担当者はAutodesk Assistantに、変更指示書の下書き作成と関係者へのタスクの割り当てを依頼。担当者がエンジニア一人一人にメールを送るなど、変更対応に伴う管理作業の負担を減らせることを示した。
Autodeskは、設計から製造までのデータをクラウド上の単一の基盤でつなぐFusionに、AIエージェントによる支援を組み合わせることで、PLMを“存在を意識させないほど”シンプルにし、複雑さを感じることなく価値を得られるようにする考えだ。チームを横断した共同作業や問題解決を支援し、業務の結果をより確実に見通せるようにすることで、収益性や競争力の向上につなげることを狙う。
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