中国新興自動車メーカーが取り組むAIアーキテクチャ「LBM」は本流となるか和田憲一郎の電動化新時代!(65)(1/3 ページ)

近年、中国の新興自動車メーカーを中心に、従来の枠組みとは異なる新たなAIアーキテクチャが台頭しつつある。それが「LBM」である。今回は、このLBMが中国の新興自動車メーカーに限定された一過性の技術潮流にとどまるのか、あるいは将来的に多くの自動車メーカーへと波及していくのかを考察してみたい。

» 2026年09月08日 07時00分 公開

 近年、ChatGPTをはじめとする生成AIが急速に普及する一方で、中国の新興自動車メーカーを中心に、従来の枠組みとは異なる新たなAI(人工知能)アーキテクチャが台頭しつつある。それが「LBM(Large Behavior Model:大規模行動モデル)」である。

 自動運転領域においては、これまで最も先進的なアプローチとして、テスラが提唱するE2E(End-to-End)方式が広く注目されてきた。E2Eは、カメラやLiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)などのセンサー情報を、ニューラルネットワークを活用してAIで判断し、ステアリング、アクセル、ブレーキといったアクチュエータへ即時に伝達するという構造を特徴としている。

 しかし、E2E方式は即応性に優れる一方で、未来予測や推論といった高次の認知機能が相対的に弱いという課題を抱えていた。これに対し、近年登場したLBMは、これまでのE2E的要素を内包しつつ、その背後に「未来状態の予測」「環境変化の推論」「行動選択の最適化」といった高度なモデル化能力を統合する点に特徴があるようだ。

 今回は、このLBMが中国新興メーカーに限定された一過性の技術潮流にとどまるのか、あるいは将来的に多くの自動車メーカーへと波及していくのか、筆者の考えを述べてみたい。

⇒連載「和田憲一郎の電動化新時代!」バックナンバーはこちら

LBMを最初に提唱したのはトヨタの研究機関

 これまで生成AIの領域では、大きく2つの潮流があった。1つは、コンテンツ生成AI(LLM、画像生成、動画生成)であり、その代表例としてChatGPTが挙げられる。もう1つは、コード生成AIであり、GitHub CopilotやClaude Codeに象徴されるように、ソフトウェア開発プロセスを自動化する技術群である。

 しかし、LBMは、これら既存の生成AIとは本質的に異なる概念である。LBMが対象とするのは、テキストや画像といった情報の生成ではなく、自動運転やロボティクスにおける物理世界での行動そのものを生成する点に特徴がある。

 驚くべきことに、LBMを最初に体系的に提唱したのはトヨタ自動車傘下の研究機関であるToyota Research Institute(TRI)である。TRIは、2025年にBoston Dynamicsとロボティクス分野における共同研究成果として、LBMの名称を用いた論文を発表した※1)。その後、マサチューセッツ工科大学のRuss Tedrake氏が「LBMはロボットの行動生成を担う基盤モデルであり、VLA(視覚言語行動)モデルを包含する上位概念である」と位置付けたことで、さらに認知度が高まった。

※1)TRI: pretrained large behavior models accelerate robot learning

 一方、自動車領域においてLBMの応用可能性にいち早く着目したのは、中国の新興自動車メーカーのXpengである。Xpengは、本連載第62回『自動車産業の新たな競争構図は「フィジカルAIカー」対「エンボディドAIカー」へ』でも示した通り、ロボティクス分野と自動運転分野に強い関心を示していた。

 Xpengは、自動運転技術を高度化する過程で、2024年に視覚と言語を統合し、行動を直接生成する大規模なVLAモデルを発表していた。しかし、VLAモデル単体では自動運転の複雑性を十分に扱えないという技術的限界を認識していたことから、より包括的なLBMを検討したとされる。

 時系列的に言えば2026年4月24日、Xpengは「北京Auto China 2026」で、LBMを反映した自動運転システム「VLA 2.0」の量産開始を発表した。さらに2026年6月3日、米国デンバーで開催された国際会議「CVPR(The IEEE/CVF Conference on Computer Vision and Pattern Recognition)2026」において、「世界モデル(World Model)」とVLA 2.0の開発、実用化を発表したことで一気に世界に広まった※2)、※3)。なお、CVPRは、コンピュータビジョンおよびパターン認識分野における世界最高峰の国際会議である。

※2)XPENG INVITED TO CVPR FOR THE THIRD TIME, SHOWCASING CHINA'S ADVANCES IN PHYSICAL AI TO THE WORLD
※3)X-World

 世界モデルとは、LBMの構成要素の一つであり、AIが世界をコンピュータの中で再現し、未来予測を行うための技術といわれている。LBMは、世界モデルに基づく未来予測に対して最善手の行動を決める。

 Xpeng以外にLBMを搭載している中国の新興自動車メーカーは、部分的な実用化も含めるとNIO、Li Auto、Xiaomiなどがある。

図1 図1 Xpengが推進するフィジカルAIのアプリケーション(ロボティクスカー、ヒューマノイド、ドローン)[クリックで拡大] 出所:Xpeng
図2 図2 LBMを最初に搭載したXpengの「GX」[クリックで拡大] 出所:Xpeng
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