弱い部分が1箇所でもあると台無しに、シール塗布装置の失敗事例冴えない機械の救いかた(10)(1/4 ページ)

本連載「冴えない機械の救いかた」では、メカ設計の失敗事例を題材に、CAE解析や計測技術を用いて、不具合の発生メカニズムとその対策を解説していく。第10回は、液晶パネル製造用のシール塗布装置で発生した塗布不良を取り上げる。振動測定とシミュレーションから、コラムの首振りを引き起こした剛性弱点を突き止めていく。

» 2026年08月17日 07時00分 公開

 今回は、弱い、つまり剛性の小さなところが1箇所でもあるために「台無しメカ」になってしまった2件目の事例を紹介します。

 まずは、前回紹介した液晶リペア装置1号機の反省を踏まえて設計した2号機から始めましょう。その後、もう1つの失敗事例を取り上げます。

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レーザーリペア装置の2号機

 図1に液晶リペア装置の2号機を示します。当然ですが、実機の写真を提示できるわけではありません。考え方が分かるように変更した、筆者の想像の産物とお考えください。駆動軸は3軸になりましたが、装置は石定盤の上に載せました。

液晶リペア装置:2号機 図1 液晶リペア装置:2号機[クリックで拡大]

 精密機器には石定盤がよく使われます。「石定盤を使えば、何でもかんでもうまくいく」的な都市伝説を筆者は信じておりません。しかし、床からの振動の影響を受けたくないなどの理由から、設計チームの総意は石定盤の採用でした。

 1人 対 他全員の多数決で筆者が負けたことに加え、製造原価が上がること以外に、石定盤が悪い方向に作用する理由も見当たりません。そのため、最終的には石定盤を採用しました。かなりぜいたくな設計ですね。

 図1の状態で振動シミュレーションを行いました。テーブル急加速時の時刻歴応答解析です。問題のない振動レベルであることを確認して製作したところ、体内のアルコールは完全に抜け、千鳥足状態は全く観測されませんでした。

 図中の振動絶縁ユニットの選定には少し配慮が必要でしたが、これはいずれ「床振動の遮断(低周波振動絶縁の設計事例)」のところでお話しします。

弱い部分が1箇所でもあると台無しになったメカ事例
2例目:液晶シール塗布装置

 では、弱い部分が1箇所でもあるために台無しになった、もう1つの事例を紹介しましょう。

 前述した液晶リペア装置と同じく、日本が液晶表示パネルの生産で国際競争力を持っていたころの話です。

 レーザーリペア装置2号機の事例では、「チャカチャカと簡単に一発で設計した」ような書き方をしました。しかし、それができたのは、これからお話しする装置の失敗でかなり苦労し、そこで得た知見を生かせたからです。

 今回取り上げる内容は公知の事例であり、参考文献[1]で公開されている図はそのまま使用します。また、この事例については以前にも紹介していますが、今回はメカ設計初心者にも分かりやすいようにリライトしました。

 まず、液晶表示パネルの構造を説明します。図2に液晶表示パネルの断面を示します。

液晶表示パネルの断面 図2 液晶表示パネルの断面[クリックで拡大]

 カラーフィルター基板とアレイ基板の間には、液晶材料、つまり液体が封入されています。カラーフィルター基板とアレイ基板は、いずれもガラス板をベースとしています。ここでは、このガラス板を「液晶基板」と呼ぶことにしましょう。アレイ基板には、トランジスタなどの半導体が形成されています。

 図示した基板間のギャップは5[μm]程度です。このギャップを形成するため、「スペーサー」と呼ばれる小さなビーズが散布されています。新しい世代のパネルではスペーサーを使わず、露光技術によってカラーフィルター側に高さ5[μm]程度の山を形成するものもあるそうです。

 2枚の液晶基板は、「シール材」と呼ばれる接着剤で接着されています。このシール材には、液晶材料を内部に封入する役割もあります。

 今回は、このシール材をガラス基板に塗布する装置の話です。

 図3に液晶パネル製造用シール塗布装置を示します。XYステージに液晶基板を載せて移動させると同時に、ディスペンサーノズルからシール材を吐出し、液晶基板上に矩形状の軌跡を描きます。ディスペンサーノズルは、注射器のようなものだとお考えください。

液晶パネル製造用シール塗布装置 図3 液晶パネル製造用シール塗布装置[クリックで拡大]

 シール材の軌跡が角を曲がる瞬間を考えてみましょう。X軸は急停止する方向に、Y軸は急加速する方向に動きます。

 ここでXYステージの動きがいったん完全に止まってしまうと、角の部分にシール材がたまり、液玉ができてしまいます。そこで、液玉を生じさせないように、CP制御でXYステージを動かします。前回の図6右図に相当する動きです。

 このときの加速度は、1[G]、すなわち9.8[m/s2]程度だったと記憶しています。

 さて、この仕様で装置を製作したところ、塗布されたシール材は図4のようになりました。

塗布されたシール材の形状 図4 塗布されたシール材の形状[クリックで拡大]

 図示したように、シール材の幅が部分的に細くなる「塗布くびれ」が発生し、品質不良となりました。考えられる原因を以下に記します。

(1)Y軸の速度が一定でなく、波打っている
(2)Z軸が上下に動き、ディスペンサーノズル先端と液晶基板とのギャップが変動している
(3)図8(後述)に示した支持構造物(以降「コラム」と呼ぶ)が振動してディスペンサーノズル先端と液晶基板とのギャップが変動している
(4)XYステージに取り付けられた液晶基板を載せる台が振動し、ディスペンサーノズル先端と液晶基板とのギャップが変動している

 液晶表示パネルは、表示領域の外側にある額縁部分のサイズが小さいほど、商品としての魅力が高まります。そのため、シール材の塗布軌跡も、角部の曲率半径をできるだけ小さくすることが求められます。

 今回は、曲率半径0.5[mm]に挑戦しようというものでした。曲率半径0.5[mm]のカーブを曲がる自動車があると考えてみてください。

 円弧状に運動している質点に作用する遠心力は、式1で表されます。XYステージには、このような慣性力が発生します。曲率半径を小さくすると、慣性力は大きくなりますね。慣性力が大きくなれば、前述したコラムや、XYステージに取り付けられた液晶基板を載せる台の振動も大きくなります。

式1 式1

 それよりもチャレンジングだったのは、塗布速度でした。

 工場で使用する生産設備には、1時間当たりの処理数を増やすことが常に求められます。そのため、シール材の塗布速度も高めなければなりません。

 しかし、式1に示したように、慣性力は速度の二乗に比例します。前述した数値から、当時の塗布速度も分かると思いますが、これもかなり背伸びをした目標でした。

 かなり昔の話ですので、曲率半径も塗布速度も、今となっては平凡な仕様です。実験室レベルでは、2[G]程度の遠心力が作用する条件でもシール塗布ができていたと記憶しています。

参考文献:

  • [1]高橋、原田、豊島|液晶シール塗布技術|Vol.53 No.1(1998)

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