最後に、「属人性」への対応策を解説する。前述の通り、「誰と、どのように共創するか」という新しい発想は、マツダと日本製鉄の事例に見られるように、現実性を帯びてきた。共創を加速させる背景にあるのがテクノロジーの進化だ。開発購買の根底にあった属人性の課題に対しては、生成AI(人工知能)とサプライヤー情報基盤が新しい解を提供する。
戦略パートナーとの共創セッションにおいて、従来はベテランバイヤーの属人的なノウハウに頼らざるを得なかったVE/VA提案のアイデア出しを、生成AIが支援できるようになっている。過去のVE/VA事例をAIに学習させることで、「この部品/この構造に対してどのような改善提案が考えられるか」をAIが過去の事例を参考に提示し、共創セッションでの議論をより具体的/多角的に実施できるようになったのだ(図3)。
このように生成AIは属人的なノウハウを形式知化し、戦略パートナーとの共創を支える知識基盤として機能する。
戦略パートナーを特定し継続的な共創を行うためには、サプライヤーの技術力/コスト競争力/開発貢献度を可視化し、共創先を選定するための情報基盤が不可欠だ。
サプライヤーの技術情報/新工法/材料特性などをデータベース化し、開発部門が設計の初期段階からアクセスできる環境の整備が求められる。今まで取引が少ない優れたサプライヤーについても、さまざまな外部情報やヒアリング情報を蓄積して、見極める必要がある。
このような情報基盤にAIを活用することで、情報の蓄積や活用が容易になる。「この設計要件に最も適した技術を持つサプライヤーはどこか」といった問いに対して、社内で蓄積された情報や、公開されている情報、商談などで収集した情報などを、横串で分析し、戦略パートナー選定の意思決定を支援することが可能になる。
AIを使った情報基盤という点からは、2024年にトヨタ自動車がマイクロソフトと共同で開発した、生成AIエージェント「O-Beya(大部屋)」の事例が興味深いユースケースだ。O-Beyaは、設計/生産技術/購買/サプライヤーが一室に集まり情報共有しながら開発を進める「大部屋方式」をAI化したものであり、9つの専門分野に特化したAIエージェントが過去の事例などを参照し、開発エンジニアが相談できるソリューションだ。
このようなアプローチは、属人的な技術/購買知見を共有し、新しい開発購買を実現するための情報基盤を検討するうえでも参考になるだろう。
従来の開発購買が機能しなかったのは、「できる人材がいれば動き、いなければ止まる」構造だったためだ。これに対し新しい開発購買では、部門間の意識のギャップを解消した上で、共創を仕組みで作り、AIと情報基盤によって属人的なノウハウを形式知化する。これらの要素がそろったものが、開発購買の新しい形であり、「組織的に機能する活動」となる(図4)。今後、こうした動きは製造業全体に広がっていくと考えられる。
この変化が起こることで、購買/調達部門に求められる役割は大きく変わる。従来の「価格交渉のプロ」から、「開発上流における共創のためのコーディネーター」への転換だ。そして、「社内外での共創を機能させるコミュニケーション力」「戦略パートナーを見極める眼」「テクノロジーを活用してノウハウを組織知化する力」の3つの能力が求められる。
特に「社外=サプライヤー」との共創を機能させるためには、自社の魅力や戦略パートナーにとってのメリットを明確にし、熱意を持って伝え、双方で改革を進めるパートナーとなることが必須だ。また、開発部門/サプライヤーの双方と対等に技術的な対話ができ、知見を結び付けるファシリテーターとしての能力が必要になる。
製品コストの80%以上が開発上流段階で決まるという構造は変わらない。その現実に正面から向き合うために、購買/調達部門が開発の上流に踏み込み、テクノロジーと戦略的なサプライヤーとの共創を武器に、コストと価値を設計する。それが、新しい開発購買の実践である。(連載完)
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野町直弘(のまち なおひろ)
フォーティエンスコンサルティング株式会社
大学卒業後、大手自動車メーカーに就職。同社および外資系金融業にて調達・購買実務および、調達部門の立ち上げを経験。コンサルティングファームにて調達・購買、ロジスティクス、SCM等のプロジェクトを担当。
その後独立し、調達購買コンサルティングファームアジルアソシエイツを設立。調達購買改革の専門家として調達・購買分野の日本国内での地位向上、バイヤーの育成支援など数多くの活動を展開。
2017年4月よりフォーティエンスコンサルティング株式会社(旧:株式会社クニエ)にて顧客の調達購買改革を支援し、マスタープリンシパルに就任。調達購買にかかるトレーニング講師や調達・購買についての著書執筆、数多くの雑誌での記事掲載、セミナー等での講演を行っている。
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