製造業の設計開発と情シスの部門間にある「ダニング・クルーガー効果」の谷武田一城の「製品セキュリティ」進化論(7)(1/2 ページ)

近年「製品セキュリティ」と呼ばれ始めたセキュリティの新分野に関する事象を紹介し考察する本連載。今回は、セキュリティを含めた製造業DXを阻む原因になっている、設計開発部門と情報システム部門がなかなか分かり合えない現実について「ダニング・クルーガー効果」で説明してみたい。

» 2026年07月15日 08時00分 公開
[武田一城MONOist]

 製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進やPLM(製品ライフサイクル管理)導入、クラウド活用の現場では、残念ながら「設計開発部門と情報システム部門がなかなか分かり合えない」という場面が散見される。

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 これらを、文化や経歴的な背景の違いだと言うことはたやすい。しかし、この分断がなぜ発生するのかについて、突き詰めるようなことはそう多くないだろう。というのも、そのすり合わせには、非常に多くの労力がかかることが多いからだ。さらに、その矢面(窓口)となる担当者の精神的な負担も無視できないほど大きい。このようなハードルの高さから、分かり合うための行動を起こすことに挑戦すること自体が難しいという状況になる。

 例えば、設計開発部門から見れば、情報システム部門は「セキュリティやルールばかりで融通が利かない存在」に映る。その一方、情報システム部門から見れば、設計開発部門は「例外要求ばかりで全体最適を考えない存在」に見えることも少なくない。

 しかし、先述のようにこの断絶を単なる感情論による部門間対立の一つとして思考停止してしまうのは、浅慮に過ぎると思われる。そこで、今回はこの状況を心理学で知られる「ダニング・クルーガー効果」で説明することで、それぞれの組織や担当者に求められている状況やその背景を詳らかにしてみた。

 実際に、この考察によって興味深い構図が見えてきた。もちろん、この心理学的な考え方で全てのつじつまが合うわけではないが、こういう考え方もできるのか!――というような軽い気持ちで読み進めてみてほしい。

ダニング・クルーガー効果とは?

 ダニング・クルーガー効果は、知識と自信の変遷を表した曲線で、通称「完全に理解した」曲線とも呼ばれる。図1にある通り1本の曲線で示され、自分の知識や能力が十分でない段階ほど、自分の理解度を過大評価しやすく、逆に知識が増えると自らの無知や課題が見えて評価が下がり、その後さらに経験を積むことで現実的な自己評価へと収束していく。

ダニング・クルーガー効果のイメージ ダニング・クルーガー効果のイメージ[クリックで拡大]

 インターネットのミームやビジネスの研修などで広く知られているこの曲線は、一般的に以下の4つの段階に分けて説明されることが多い。

  1. 過信の山(Mount Stupid):ちょっと学び始めたばかりの時期。「完全に理解した」と錯覚し、根拠のない自信が最高潮に達する段階
  2. 絶望の谷(Valley of Despair):少し深く学び、自分の無知と分野の奥深さに気付く時期。「何も分からない」と自信が底まで急降下
  3. 啓発の坂(Slope of Enlightenment):地道な努力によって本当の知識やスキルが身に付き始める時期。「少しずつ分かるようになってきた」と、現実的な自信が回復
  4. 持続性の台地(Plateau of Sustainability):豊かな経験に基づいた正しい自己評価ができるようになる、成熟した専門家の段階

 なお、これらの内容については、本来のダニング・クルーガー効果とは異なるという意見がある。また、この曲線がIT分野の調査会社として著名なガートナーの「ハイプサイクル」にも酷似していることもあり、これらが混ざり合ったインターネットミームの一つだと思われる。

 つまり、学術的に正しいとまでは言えないものの、数多くの人が「なんとなく腑に落ちる内容が含まれることから一般化した理論」というのが妥当な理解だと思われる。また、ここで述べた「ミーム」とは、生物学者のリチャード・ドーキンスが1976年の著書「利己的な遺伝子」の中で提唱した造語で、遺伝子(gene)とギリシャ語で「模倣」を意味するミメーム(mimeme)を掛け合わせて作られた言葉だという。現代では、SNSや掲示板を通じて世界中に一瞬で拡散される「面白い画像、動画、フレーズ、ネタ」のことを全般的に指す。

 これらは、本来のダニング・クルーガー効果とは似て非なるものになっている部分が少なからずあるが、「完全に理解した」曲線の内容は、世間一般に散見される状況であり、非常に共感が得やすい表現だ。また、製造業の設計開発部門と情報システム部門の間の微妙な関係性や属性も含め、分かりやすく説明できることから、先述の誤用に近いことを承知で説明に利用させていただいた。

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