Q スペシャルセッションではAWSとの協力で「1台が学んだことを全世界へ還元していく世界」を訴えました。具体的なイメージを教えてください。
安部氏 例えば、ロボットがTシャツを畳む作業があったとする。
日本国内のある店舗でそれを行うと、そこで生まれたデータを国内外の別の店舗に拡張できる。違う店舗で学習をやり直す必要がない。逆に、海外の店舗で取れたデータを、最初にデータが生まれた店舗にも活用できるという世界だ。
ある店舗でできた動作なら、自分の店舗でもできる。自分の店舗でできた動作なら、他の店舗でもできる。稼働しているたくさんのロボットを、一斉に向上させることができる。それを繰り返しながらさらに賢くなっていく。
今、われわれもフィジカルAIの実装を進めているが、工場の各所での最適化であって、米国の工場で作ったアプリケーションを欧州の工場に横展開する際に、ロボットのプログラムはコピーできても、そこで生まれたデータを活用するなど、必ずしも最適化まで同時に進められる環境にはなっていない。
Q ファナックの「ZDT(ゼロダウンタイム)」をAWSのクラウド上で展開していることも発表されました。ZDTのデータもフィジカルAIに活用できるのでしょうか。
安部氏 ZDTは、予防保全やトレーサビリティーに関するデータ活用が主なので、それほどリアルタイム性は求められていない。それでも全世界の4万台以上のロボットがつながり、数十秒に1回はデータを収集しているので、それなりの頻度になっているし、“動作系”に関するデータも取得している。数ms間隔の動作に関するデータはこれまで必要なかったが、動作系にも活用できる基盤自体は構築できており、データ活用の下地は既にできている。ファナックはAWSとそういう基盤を10年以上前に作り上げ、それを育ててきたので展開しやすい。
日本国内でも、クラウドに対するハードルが低くなっている。セキュリティがしっかりしており、製造業でもクラウド活用が当たり前になってきた。もちろんZDTのデータの主権はユーザー側にある。これはAWSのクラウドの強みだ。
AWSと築いた基盤でフィジカルAIを活用することにより、同じ企業の中の別の場所もしくは別の国にある工場にフィジカルAIを同時展開していけるようになる。1カ所で得られたデータは成功も失敗も一元的に集めてつなげる。1台から世界中のロボットに展開できる。
Q 先日発表したGoogle Cloudとの協業の違いは何でしょうか。
安部氏 われわれとして重要なのは、ユーザーが求める最適な解が何かであって、ベンダーありきではない。ユーザーがやりたいことや困りごとの解決を目指している。その解が、もしGoogle Cloudの中にあるのであれば使うし、AWSしかできないということであればAWSに、ということになる。
Q 直近ではファナックはオープンプラットフォームへの対応を推進しています。この背景を教えてください。
安部氏 今までは、われわれが独自に開発したアプリケーション、あるいはお客さまと“1対1”で取り組んで出来上がったアプリケーションを提供してきた。そういった開発は今も続けているし、今後も続けていく。ただ、ロボットの爆発的な出荷台数の伸びを見ると、このまま“1対1”を続けていくというのは現実的ではない。また近年、さまざまなAIが開発されている中で、これらを活用しない手はない。
オープン化による一番の違いは、われわれだけではなくて、われわれの知らない人が知らない場所で作ったAIも、ファナックのロボットに流し込めるようになったことだ。世界中のAI技術者たちによって作られた機能を取り入れることができるようになった。
ただ、これに関しては2つの懸念があった。
1つは安全性への懸念だ。AIがロボットを暴走させて、人にけがさせてしまうかもしれない。大型のロボットに至っては、人の命を奪ってしまうかもしれない。もう1つは、ロボットに激しい動きをさせ、ロボットを壊してしまうかもしれないという懸念だ。
ファナックのロボットは高い安全性と、何年使っても壊れない堅ろう性という強みでご好評いただいている。これがオープン化によって崩れてしまったら、何のためのオープン化か分からなくなってしまう。
そのため、非常におかしな動作がロボットコントローラーに入ってきたときに、1msの超高速制御の中でロボットに応じて加減速などを補正できるようにした。
具体的に言うと、例えば停止した状態から1m/sまでロボットの動作スピードを上げるという指示があったとする。ロボットが指示通り動いたら、ものすごいスピードで動き出して、安全装置があっても周囲の人がけがをしてしまうかもしれない。
ただ、そもそもの指示の意図は“できるだけ早く1m/sに達してほしい”ということであって、つまり“そのロボットが可能な最大の速度で1m/sまで上げる”ことだ。そこで安全性を保ちながら、ロボットが壊れない最大限の加速度に調整して動かす。イメージとしては、われわれのロボットコントローラーの中でソフトウェアが監視して、修正しているといえる。
それによってロボットが暴走しないし、壊れることもない。われわれも安心して皆さんに使っていただけるし、AI開発者にとっても自分たちが作ったソフトで人がけがしたり、ロボットが壊れてしまったりするという心配がないので、安心してファナックのロボットに流し込める。それらを考えた上でのオープンプラットフォーム対応という点が大きな強みだ。
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