では、実際にAIをSCMのビジネスモデル変革にどう生かすべきか。小野塚氏は、こうした「AI主導のSCM」を先進的に実践している企業としていくつかの事例を紹介した。
花王は以前よりAIを活用した需要予測を行っていた。商品別/店舗別に販売状況を日次でモニタリングし、AIで分析することにより、新製品であっても発売から7日間程度で定番商品並みの販売予測を実現した。それにより、店舗での販売状況に即した新製品の開発、適切なタイミングでの投入時期の判断。効果的な棚割/販促の提案などを実現。高効率な生産/出荷などに生かしている。
ZARAなどを展開するアパレルメーカーのInditexは、「買った人」だけでなく、商品管理ロボットやタッチパネル試着室などにより、手に取られても買わなかったり試着されても売れなかったりした商品など「買わなかった人」の情報もAIでトラッキングした。これにより、顧客のサイレントな不満を検知し、単なる店舗オペレーションの効率化ではなく商品開発の高度化へもデータを還流させている。
農機具メーカーのJohn Deere(ジョンディア)は、農機に搭載したセンサーから稼働状況をAIが解析し、適切なメンテナンス時期をディーラーへ通知する自社SCMの強化を確立。さらには蓄積した土壌や作物の生育状況から、肥料の需要や作物の収穫予測を肥料メーカーや穀物メジャーなどに外販するという、新しいデータビジネスを展開し、収益化を図っている。
ミスミが買収した米国スタートアップのFictivは、3DプリンタやCNC工作機械などのデジタルファブリケーション機器の「空き稼働」と「特注品の製造ニーズ」をAIで結び付けるプラットフォームを開発した。例えば、1日8時間しか稼働しておらず16時間は空いているデジタルファブリケーション機器と、わざわざ自社で機器を購入するほどではないが特注品を製造したい発注者の要望をAIがすり合わせることで、新たな受注機会の創出と設備投資の抑制につなげるものだ。これにより、輸送費とCO2排出量の低減を実現した。
これまでの事例が示す通り、AIの活用には「自社オペレーションの圧倒的な効率化」と「自社ソリューションのプラットフォーム外販による新事業機会の獲得」という双方向のメリットがある。だが、小野塚氏は「最も重要なのはAIの使い方を考える前に、まずは『自社のサプライチェーンでどう勝つか』という目指す姿を描くことだ」と語った。自社のサプライチェーンを理解し、目指すべき姿を見据える。その上で、AIの進化スピードに取り残されないよう、その目指す姿自体を随時アップデートし続けられる好サイクルを回すことが求められる。
サプライチェーンにおけるAI活用とは、単なる現場の業務効率化ツールではない。それは自社のビジネスモデルを根本から強くし、企業価値をより一層高めていくための「目の前に転がっている大きなビジネスチャンス」なのである。
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