MONOist 日本の製造業では、人材不足やベテラン技術者の退職に伴う技能伝承が大きな課題になっています。AIはこうした課題にどのように貢献できるでしょうか。
キンダー氏 日本をはじめとする成熟市場では、熟練人材の高齢化や労働力不足が課題になっている。AIを使えば、経験豊富な人たちが行っている作業を追跡し、手順として記録し、そこから学習できる。過去のモデルや作業プロセスを参照しながら、作業の流れを理解することも可能になる。
これは、新しい従業員を教育するためにも、タスクを自動化するためにも使える。より少ない人数で生産性を維持するという観点でも、重要な意味を持つだろう。
もちろん、全ての知識をAIで完全に置き換えられるわけではない。しかし、これまで個人の経験に依存していた手順や判断の一部を記録し、再利用可能な形にする上で、AIは有効な手段になり得る。
MONOist AIエージェントが正確な提案や操作を行うには、単なるテキストではなく、高品質でコンテキストを持つデータが必要になります。AI時代におけるデータの重要性をどう見ていますか。
キンダー氏 AIの価値を提供するための基盤として、われわれオートデスクは大きく4つの層を考えている。その層とは「データ」「エンジン」「コンテキスト」「エクスペリエンス」の4つだ。
まず重要なのは「データ」だ。ここでいうデータとは、ファイルの中に閉じられた情報ではなく、ファイルから取り出され、ジオメトリや部品同士の関係を理解できる“粒状化”されたデータを指す。
その上に、ジオメトリを理解するための「エンジン」がある。さらに、部品や要素が互いにどう関係しているのか、業界ごとにどのような設計/製造の文脈があるのかを理解する「コンテキスト」がある。最後に、企業ごとの設計ルールや作法、ユーザーごとの働き方を反映する「エクスペリエンス」がある。
例えば、ある設計者には特定の作業の進め方があり、ある企業には守るべき設計ルールがある。そうしたものは、パーソナライズされた体験として表れる。この4つが組み合わさることで、将来のAI体験を支える基盤になると考えている。
製造業で求められる精度のAIモデルを訓練するには、数千万、あるいは数億のデータが必要だ。オートデスクにはそうしたデータの蓄積がある。ただし、価値を生むのはデータだけではない。データ、エンジン、コンテキスト、エクスペリエンスの4つの組み合わせが重要といえる。
MONOist 設計データがファイル単位で散在し、どれが最新版か分からないといった管理の課題を耳にすることがあります。AI時代に向けて、設計データをどのように整備すべきでしょうか。
キンダー氏 まず、データをクラウド上で扱えるようにすることが重要だ。クラウド上にデータがあれば、複数のユーザーが協調して作業でき、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めやすくなる。そして将来的には、AI機能を活用するための基盤にもなる。
「Autodesk Fusion Manage」や「Autodesk Vault」などを活用することで、コラボレーションを実現し、将来的なAI機能を使いやすくできる。重要なのは、設計データやプロセス情報を業務の中で継続的に蓄積し、AIが扱える形に整えていくことだ。
MONOist AIに設計データを使わせることに対して、知的財産面の懸念を持つ企業もあります。この点をどのように考えていますか。
キンダー氏 その懸念は理解している。ただし、オートデスク製品におけるAI利用は、ユーザーの知的財産を損なうものではない。ユーザーの設計データが競合他社や第三者に共有されることはない。
MONOist オートデスクはFusion向けのMCP(Model Context Protocol)を公開したり、Anthropicの「Claude」との連携も進めていたりします。MCPのようなオープンな仕組みを、設計/製造ワークフローの中でどのように位置付けていますか。
キンダー氏 MCPは、異なるシステム同士をより容易につなぐ上で、大きなブレークスルーだと考えている。
かつてCADやCAMなどはそれぞれ孤立しており、システム同士をつなぐには個別に接続するような考え方が必要だった。その後、APIによってシステム間のマッピングが可能になったが、それでも個別の対応が必要だった。MCPは、異なるシステムがより簡単に連携して機能するための仕組みになる。
われわれは、サードパーティーと協力し、MCPを共有することで、エンドツーエンドでユーザーの課題を解決するという考え方を支持している。ユーザーに選択肢を提供し、異なるソフトウェアソリューションを連携しやすくすることが重要だ。
MONOist 今後は、Autodesk AssistantのようなAutodeskのAI機能だけでなく、Claudeや独自のAIエージェントなどを組み合わせて設計業務に活用するような使い方が広がるのでしょうか。
キンダー氏 その方向に進むと考えている。Autodesk Assistantでは、Autodeskの機能だけでなく、サードパーティーのモデルや、将来的にはパートナーのMCPを呼び出すことも想定している。これは、われわれがオープンなエコシステムを重視しているからである。
FusionのMCPを使う場合、ユーザーは慣れ親しんだFusionのキャンバス上で作業できる。一方で、Claudeのような環境では、白紙のページから作業を始めるような体験になる。ユーザーによっては、その方が使いやすい場合もあるだろう。
Autodesk Assistantは、AI機能にアクセスする最も簡単な方法だ。Fusionでは特に進んでいるが、Assistantは当社のさまざまな製品に組み込まれている。今後も、ユーザーが使いたい環境やツールを選び、必要に応じて組み合わせられるようにしていく。
MONOist 最後に、AI時代における設計の在り方、設計者の目指す方向性についてメッセージをお願いします。
キンダー氏 AIは、設計者の作業を早め、より多くの選択肢を探索できるようにするものだ。ただし、AIが設計者を置き換えるわけではない。設計者は、CADや設計/製造プロセスの知識を土台にしながら、AIを使ってより広い範囲を見渡し、意思決定の質を高めていく必要がある。
重要なのは、AIを単なる自動化ツールとしてではなく、自分の設計が下流工程やシステム全体にどう影響するかを理解するための手段として使うことだ。AIを使って自分の仕事をどう効率化できるか、どう創造性を高められるか、どう下流への影響を理解できるかを考える姿勢が設計者に求められる。
AI時代になっても、設計者の知識や経験が不要になるわけではない。むしろ、それらをAIと組み合わせることで、より大きな価値を生み出せるようになる。
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