日本の“眠れるデータ”を競争力へ、日本発のプラットフォーム「xIPF」が始動加速するデータ共有圏と日本へのインパクト(9)(2/2 ページ)

» 2026年06月26日 08時00分 公開
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「社会実装の壁」を突破する実証環境と2つのワーキンググループ

 システム面で企業間をつなぐ技術は既に存在しているものの、それを社会に実装するための「認知の向上」や「ルール、制度の設計、整備」が不足していることがこれらが進まない最大の要因であった。そこでxIPFコンソーシアムは、民間企業主導でいち早く社会実装を果たすための「実証環境(xIPF Public)」を提供していることも特徴だ。

 これまで、新たなデジタルインフラを用いた実証を行うには、データセンターの構築やクラウド環境の整備に1年単位の時間がかかることもあった。しかし、このxIPF Publicを「公共設備」のように提供することで、AIスタートアップやデジタルリテラシーに課題を抱える企業であっても、やりたいアイデアを持ち込むだけで、わずか3カ月程度でビジネスの実証実験を開始できるという。

 これを推進するため、xIPFコンソーシアム内には「技術開発」と「社会実装」の2つのワーキンググループ(WG)が設置されている。各企業が持ち寄った技術を「技術開発WG」でいち早くプロダクト化し、それを「社会実装WG」がスマートシティーなどの実際のユースケースに適用していく。この両輪を効果的に回すことで、単なる技術検証で終わらない事業化へのエコシステムを構築している。また、スタートアップ企業が参加しやすいよう、準会員というカテゴリーも設け、多様なプレイヤーを巻き込む工夫も施されている。

マネタイズとインセンティブの壁を越える鍵

 これまで、欧州を含めてデータスペースの議論は長く続いてきたが、持続的なビジネスモデル(マネタイズ)が描けず、国からの補助に依存しがちで広く普及するには至っていなかった。また、企業側には「データを外に出すことへの漠然とした不安」や「提供するインセンティブの不在」という根強い課題があった。

 この停滞を打ち破る最大のドライバーとなるのが「AI」である。AIという分かりやすいエンジンが普及すればするほど、それを動かすための「燃料」となるデータが圧倒的に不足する。そこで初めてデータ自体にマネタイズの価値が生まれ、データスペースのビジネスモデルをAIが力強く牽引(けんいん)する構造が誕生しつつあるのだ。関係者は、人間が間に挟まるよりもAIとデータを直接つないでしまった方が、社会にとって最適な形が取れるのではないかと議論を進めている。

 xIPFコンソーシアムは、まずは確実に成功事例(クイック・ウィン)を作るため、「インフラ」「モビリティ」「エネルギー」といった社会インパクトが大きく、レバレッジの効きやすい領域から着手している。例えば、東京大学との共同研究から参画に至ったNEXCO東日本は、公共性の高いデータを外部と連携させたいというニーズを持ち、初期の重要なプレイヤーとなっている。

 具体的なユースケースとして「交通渋滞の緩和」を考えた場合、道路事業者のデータだけでなく、通信事業者が持つユーザーの移動データや、一見無関係な決済やイベントログデータなどを統合することで初めて精度の高い解決策を導き出せる。また「ヘルスケア」領域でも、医療データと通信、ウェアラブル端末のデータを掛け合わせることで、病気を未然に防ぐケアが実現する。

 一方、日本の基幹産業である「製造業」や「物流」は、機密性への懸念からデータ連携のハードルが非常に高い。そのため、まずはインフラ領域などでデータ連携の成功体験やフレームワークを確立し、その実績をもって製造業などの他産業へ横展開していく戦略を描いている。

photo 図4:xIPFプラットフォームの活動ロードマップ[クリックで拡大] 出所:xIPFコンソーシアムのWebサイト

日本の「圧倒的なデータの質」を武器に世界へ

 日本のデータスペース推進においてxIPFコンソーシアムは各所組織との連携やすみ分けを行っている。国際標準(IDSAなど)とのアラインメントや標準技術の策定については、先行するDSA(データ社会推進協議会)が担う。一方、xIPFはDSAが策定した標準技術を活用しながら、ユーザー企業と共に「民間主導で社会実装を進める」という強力なタッグ体制を構築している。技術アーキテクチャにおいても、共通仕様のODS-RAMなども参照し、ユースケースに最適なものを柔軟に採用していく方針だ。

 また、国の産業デジタル協議会やウラノス・エコシステム推進センターとも密に情報交換を行っており、ウラノス・エコシステム上での実証をxIPFがサポートするなど、産官学が一体となって日本全体のエコシステムの底上げを図っている。

 AIのアルゴリズムやシステム基盤がいずれコモディティ化していく中、世界市場における究極の差別化要因は「データ」になる。日本には、製造業や現場のインフラをはじめ、世に出ていない「圧倒的に品質の高いデータ」が眠っており、これが日本の最大の武器になると期待されている。

 発起人であるソフトバンクにとっても、この構想の実現は自社の競争領域である「最下層のコンピューティング基盤(計算資源やデータセンター)」の利用拡大に直結する大きな意義を持っている。さまざまな企業のAIプロダクトがこの基盤上で連携することで、巨大なエコシステムが形成される。

 2025年秋のキックオフ(300人超が参加)やCEATECでの発表を経て、2026年4月からは一般社団法人として正式に活動を開始した。コンソーシアムが掲げる目標は明確だ。「2030年までに、消費者が『明らかに生活が便利で豊かになった』と体感できるレベルの社会実装を仕上げること」である。日本発の成功モデルとデータ連携のインセンティブ設計を海外へ展開し、日本がグローバルにおけるデータ連携のリーダー的地位の確立に向けて動き出した民間主導のxIPFプラットフォームの今後の動きに注目したい。

≫連載「加速するデータ共有圏と日本へのインパクト」バックナンバー

筆者紹介

小宮昌人(こみや まさひと)
株式会社d-strategy,inc 代表取締役CEO
東京国際大学 データサイエンス研究所 特任准教授

 日立製作所、デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所、産業革新投資機構 JIC-ベンチャーグロースインベストメンツを経て現職。2024年4月より東京国際大学データサイエンス研究所の特任准教授としてサプライチェーン×データサイエンスの教育・研究に従事。加えて、株式会社d-strategy,inc代表取締役CEOとして下記の企業支援を実施。

(1)企業のDX・ソリューション戦略・新規事業支援
(2)スタートアップの経営・事業戦略・事業開発支援
(3)大企業・CVCのオープンイノベーション・スタートアップ連携支援
(4)コンサルティングファーム・ソリューション会社向け後方支援

 専門は生成AIを用いた経営変革(Generative DX戦略)、デジタル技術を活用したビジネスモデル変革(プラットフォーム/リカーリング/ソリューションビジネスなど)、デザイン思考を用いた事業創出(社会課題起点)、インダストリー4.0・製造業IoT/DX、産業DX(建設・物流・農業など)、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ、自動運転など)、スマートシティ・スーパーシティ、サステナビリティ(インダストリー5.0)、データ共有ネットワーク(IDSA、GAIA-X、Catena-Xなど)、ロボティクス・ロボットSIer、デジタルツイン・産業メタバース、エコシステムマネジメント、イノベーション創出・スタートアップ連携、ルール形成・標準化、デジタル地方事業創生など。

「生成DX」(SBクリエイティブ)

 近著に『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社/共著)、『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる〜』(日経BP)があり、2024年11月には『生成<ジェネレーティブ>DX 生成AIが生んだ新たなビジネスモデル』(SBクリエイティブ)を出版。経済産業省『サプライチェーン強靭化・高度化を通じた、我が国とASEAN一体となった成長の実現研究会』委員(2022)、経済産業省『デジタル時代のグローバルサプライチェーン高度化研究会/グローバルサプライチェーンデータ共有・連携WG』委員(2022)、Webメディア ビジネス+ITでの連載『デジタル産業構造論』(月1回)、日経産業新聞連載『戦略フォーサイト ものづくりDX』(2022年2月-3月)など。

  • 問い合わせ([*]を@に変換):masahito.komiya[*]keio.jp

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