金型開発では、筆者は確かに恵まれた環境にいたと自覚しております。ある日、大事な機械の部品交換があるので、腕が良いというかベテランの方の派遣を製造部門にお願いしたところ、「良ちゃん、何やるんだい?」と、いわゆる“現代の名工”の方が来たことがありました。
「げっ、現代の名工が来てしまった。これは、神経を使うな〜」と思いながら作業をお願いしたのですが、案の定、パパっと作業が終わりました。入社してから、部署には常に高橋が2、3人いたので、筆者は下の名前で呼ばれることが多かったです。
あるとき、幾何公差で平面度0.003[mm]、平行度0.003[mm]の図面を手配したところ、加工部門のFさん(10年以上前に退職された藤川さんです)から、「良ちゃん、勘弁してよ」と言われたことがありました。この部門にこれくらいの加工能力があることは承知していたのですが、それは部品サイズが小さい場合です。サイズが大きくなると、無理な要求精度となります。
こんな状況で、「平面度の数値をどこまで緩めるか」といった交渉は不毛だ、というのが筆者の考えです。このようなときは、「この点とこの点の座標値を測定してもらい、その生データを部品とは別にいただけませんでしょうか。結果がどうであっても、部品は引き取ります」とお願いします。すると、交渉はすんなり成立します。その測定値を見て、対処法を考えればいいのです。といっても、大概はかなり良い数値の部品が出来上がり、当初の目的は達成しました。
そしてFさんは、筆者が描いた図面に赤字で追記や修正を入れてくださることが常でした。Fさんは筆者に気を使って、赤字修正の存在を気付かれないようにされていたのですが、たまに出来上がった部品に図面が付いていて、赤字修正に気付くことがありました。そのおかげで、筆者が設計した実験機はうまく動きました。しかし、筆者の実験結果が期待通りにならなかったことが多かったのは、言うまでもありませんね。モノづくりの競争力は、この辺にもあるように思います。
ここで、前回お話しした、格上の研究所の件に戻ります。
それまで試行錯誤を続けてきた金型でしたが、前述したような優れた職場で作ったものですから、一発設計で性能を出すことができました。その結果、ごく少数の開発グループ内で「あそこの研究所には高橋っていうスゲーやつがいる」との情報が広まるようになりました。
そんなある日、その研究グループの女性研究員から、「技術面で相談したいことがあるので、次はいつこちらに来られますか?」との電話がかかってきました。心の中では「今すぐ行きます!」と叫んでいたのですが、「では、来週の水曜日に別件があるので、そのとき打ち合わせしましょう」ということになりました。
といっても、お相手は偏差値も最終学歴も高く、しかも専門分野も異なっていたので、筆者の知識が役に立つはずがありませんでした。「カーボンには手が4つあって……」と説明されても、「千手観音より手は少ないけど、オイラの手には負えないな」と思いながら、1時間ほどお相手をしました。
打ち合わせの最後に、「これが今度発注する部品リストです」とリストを見せていただいたとき、「研究費の手配ですよね。この金型、品名を『金型』ではなく、『ブロック』とか『プレート』に変えた方がいいですよ」と、これくらいしかお役に立てる助言ができませんでした。純真無垢(むく)な若き研究者に、余計なことを教えてしまったのかもしれません。
以上で、「均一な加圧ができる金型を作ろう」の話題は終了です。次はボルトの話ですね。MONOistでボルトの話を書くのは3回目です。次回は、初心者向けに書き直してみようと思います。 (次回へ続く)
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