本連載では、大阪大学 大学院工学研究科 教授の宇山浩氏の研究グループが開発を進める「混紡繊維の分別/リサイクル技術」を紹介。第2回では、混紡繊維リサイクル技術の概要と成果について解説する。
前回は、アパレル産業が世界規模で抱えている深刻な環境負荷の現状と、その解決策となるリサイクルを阻む最大の技術的障壁が「混紡」という異種素材の組み合わせにあることを解説しました。
特に綿とポリエステルは、衣料品全体の約半数を占める極めて一般的な組み合わせであり、この2つをいかに高精度かつ低エネルギーで引き離すかが、繊維リサイクルを真の循環型へと進化させるための最重要課題となります。
本稿では、筆者らの研究グループが構築した「マイクロ波加熱×触媒×溶媒」による高度分別プロセスの具体的な仕組みと、一連の実験によって得られた詳細な知見について、実データを交えながら詳述します。
この分別プロセスの核となるのは、溶媒であるエチレングリコール(EG)中で混紡繊維にマイクロ波(MW)を照射し、ポリエステル成分だけを選択的に化学分解(解重合)させる技術です。
マイクロ波は、家庭用電子レンジと同様に物質の分子を直接振動させて内部から急速に熱を発生させるため、従来の外部加熱方式に比べて圧倒的に短時間で反応温度に到達させることができます。この特性により、繊維内部まで熱を均一に伝達し、効率的な反応場を形成することが可能になりました。
本プロセスの全体像を以下の図1に示します。検証の基準としたのは、綿50%とポリエステル50%の割合で構成された10gの白色混紡生地です。これに対し、溶媒として100mLのエチレングリコールを、分解を促進するための触媒として微量の酢酸亜鉛を加え、マイクロ波の照射を行います。反応後、分解液に熱水を添加してろ過することで、未反応の綿繊維と、ポリエステルが分解されて溶媒中に溶解した分解生成物に分離します。
このプロセスにおいて、反応の進行を左右する最大の要因は温度と保持時間の設定にあります。装置の設定温度を200℃とし、その温度に達してからわずか7分間の保持でポリエステル成分の全てが分解されることが明らかになりました。一方、この保持時間を4分にするとポリエステルが若干残存しました。
これに対し、設定温度を180℃まで下げた条件下では、保持時間を30分まで大幅に延長したとしても相当量のポリエステルが残存しました。この結果は、特定の温度閾値を超えることでマイクロ波による急速な解重合反応が促進されることを明確に示しています。図2は、この温度による処理後の状態の違いを比較したものです。200℃で適切に処理されたサンプルは、ポリエステルが完全に除去されることで元の布状の形態が崩れ、純粋な綿の塊として「わた状」になっていることが分かります。
分別の「質」をさらに詳細に確認するため、回収された繊維の表面を光学顕微鏡で観察した結果が図3です。未処理の混紡繊維では綿とポリエステルが複雑に絡み合っている様子が観察されますが、今回の技術により処理後の繊維ではポリエステル特有の平滑な繊維が消失し、綿繊維のみが良好な状態で残存していることが確認されました。赤外分光分析においてもポリエステル由来のピークは完全に消失しており、物理的/化学的に極めて精度の高い分別が達成されています。
ポリエステルから分解生成されたテレフタル酸ビス(2-ヒドロキシエチル)(BHET)については、分解液を冷却して再結晶化させることで回収されます。これに対してプロトン核磁気共鳴分析を行ったところ、そのスペクトルは市販の試薬級BHETと完全に一致しました。複雑な混紡布から得られたリサイクル原料が、化学的に極めて高い純度を有していることが実証されたのです。
触媒の選択についても、酸化亜鉛や塩化亜鉛、酢酸マグネシウムなど複数の金属触媒を比較した結果、200℃、7分の保持条件において酢酸亜鉛が最も高い活性を示すことを明らかにしました。
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