日本が再び世界をリードするための、“シン”モノづくりの世界ディープな「機械ビジネス」の世界(9)(1/2 ページ)

産業ジャーナリストの那須直美氏が、工作機械からロボット、建機、宇宙開発までディープな機械ビジネスの世界とその可能性を紹介する本連載。最終回となる今回は、日本のモノづくりの今後を左右する、デジタル化や国際標準化について取り上げます。

» 2026年05月11日 07時00分 公開
[那須直美MONOist]

 産業ニーズが高度化/多様化するなかで、その対応力を左右するのがデジタル化です。ところが日本は、米国や欧州、中国といった主要国と比べても、この分野での遅れがたびたび指摘されています。これは単なる「後追い」では済まされない、競争力そのものに関わる問題です。

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 データは蓄積されることで価値を持ち、やがてビッグデータへと進化します。そのビッグデータをAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)と掛け合わせることで、はじめてDX(デジタルトランスフォーメーション)は現実のものとなります。ただ、その実現にはサーバや通信回線、各種機器といったインフラ整備が不可欠で、企業には相応の設備投資という重い決断が求められます。

 さらに見逃せないのが、人材の問題です。DXを回すエンジンは「IT人材」にほかなりません。経済産業省の推計によれば、IT人材の平均年齢は2030年に向けて上昇を続け、高齢化が進行すると見られています。つまり、「人が足りない」だけでなく、「若い担い手が増えない」という二重の課題を抱えているのです。

2019年発表のIT人材需給の試算結果 2019年発表のIT人材需給の試算結果[クリックで拡大]出所:経済産業省

 とりわけ日本企業の99%を占める中小企業にとって、この問題はより深刻です。労働集約型の産業構造が多い中で、人材不足はすでに顕在化しており、2030年にはIT人材が40〜80万人規模で不足する可能性が指摘されているのです。このギャップを埋められるかどうかが、日本の産業の未来を大きく左右すると言っても過言ではありません。

 象徴的なエピソードがあります。

 ある町工場の経営者にDXの取り組みを尋ねたところ、「うちはDXをやっています」とおっしゃっていたので、「では、どんな点についてDXを推進しましたか」と質問してみると、「タイムカードを廃止した」との答えが返ってきました。

 もちろん、それも一歩ではありますが、このやりとりは日本の製造業におけるDXの認識がまだ表層にとどまっている現実を浮き彫りにしています。

 DXとは単なるデジタル化ではなく、「データと技術を武器にビジネスそのものを変革する取り組み」です。今こそ、日本の製造業はその本質に踏み込み、「本気の変革」へと舵を切る必要があります。

「国際標準化」を巡る熾烈な戦い

 DXの重要性が叫ばれる一方で、それ以上に見落としてはいけないポイントがあります。それが「国際標準化」です。日本発の優れた技術や製品は数多く存在します。しかし、現実の国際競争は熾烈で、「生き馬の目を抜く」スピードで競争相手はやってきます。

 そして、どれほど高品質であっても、「国際標準」に適合していなければ、グローバル市場では土俵にすら上がれないというケースも珍しくありません。ここに、日本の製造業が抱える構造的な弱点があります。

 実際に海外へ目を向けると、その差はより鮮明になります。とりわけドイツの機械産業では、デジタルマニュファクチャリングが着実に進展しています。デジタル技術を駆使し、設計から生産、物流に至るまでサプライチェーン全体を一体で最適化する。この仕組みこそが競争力の源泉となっているのです。

 さらにドイツでは、デジタル空間上での「シミュレーションの活用」が前提条件となっています。新製品の開発において、デジタルデータが存在しなければ、ビジネスのスタートラインにすら立てないといわれるほど、デジタル化は深く浸透しています。

 この流れが加速すれば、ドイツが自動化と標準化のルールを主導し、各国がそれに追随する構図も現実味を帯びてきます。結果として、スピードと効率を極めたサプライチェーン、さらにはそれにひもづく国際標準の領域で、日本が後手に回るリスクは否定できません。

 とはいうものの、ドイツも万能ではない面があります。社会インフラのデジタル化や行政サービスの電子化、通信環境などに目を向ければ、欧州内でも中位から下位に位置するという指摘があります。つまり、「国家全体としてのデジタル化」と、「製造業の競争力」は必ずしも一致しないのです。

 こうした点を踏まえると、国際標準を制することが必ずしも市場支配力に直結するわけではないことも分かります。とはいえ、標準が市場参入の前提条件となるケースが増えている現在、その影響力は極めて大きいといえるでしょう。従って、日本の製造業はDXによる内部変革と同時に、どの標準を取りにいくのか、どのルール形成に関与するのかという視点を持つことが不可欠だと感じています。

 今や国際標準は単なる技術仕様ではなく、市場への「参加資格」と言っても大げさではありません。ここを外せば、いかに優れた技術であっても採用されず、グローバル競争の土俵にすら立てない可能性もあるのです。

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