連載「必要とされるモノづくりの追求」では、研究開発と実際の現場/ユーザーとの間に生じるギャップを整理しながら、技術の価値をどこに置くべきかを問い直し、必要とされるモノづくりの在り方を考察する。第3回は、専門分野や担当部署の枠を超えて物事を見ることが、なぜ“必要とされるモノづくり”につながるのかをテーマに、その重要性を考える。
これまで「最新の優れた技術があっても現場で使われない理由」、そして「現場を理解した“つもり”が生むズレ」について述べてきました。
連載第1回では、どれほど技術的に優れた製品であっても、現場のニーズや使用環境との間に“ギャップ”があれば普及しないことを取り上げました。続く連載第2回では、その背景として、開発者が「現場を理解した“つもり”」になり、本質的な課題を見落としてしまう危険性について考察しました。
では、“必要とされるモノづくり”を実現するために、われわれ研究者/技術者は何を意識し、どのように行動すべきなのでしょうか。
私なりの答えは、「専門分野や担当部署といった枠を超え、多角的な視点で物事を見ること」、そして、そのために「実際に動いて確かめること」が重要だという点にあります。
研究や開発、あるいはプロジェクトを進めていると、必ずといってよいほど“壁”にぶつかります。
そんなとき、皆さんならどうするでしょうか。PCの前で考え続けるでしょうか。会議室で議論を重ねるでしょうか。それとも、一度諦めて方向転換するでしょうか。
もちろん、状況によって最適な方法は異なります。しかし、ものづくりにおいて私が最も重要だと考えているのは、
頭の中だけで考え続けないこと
です。
研究では、壁にぶつかることは正直多々あります。特に学生にとっては、日常茶飯事かもしれません。
一般的に、研究は以下の流れで進めていきます。
この中で、多くの学生が直面する最大の壁が、「4.残された課題の洗い出し」です。多くの場合、論文や書籍、ネットの記事などで従来研究を探しますが、特に研究活動を始めたばかりの学生は、読めば読むほど「もう残された課題(研究要素や新規性)はない」と報告してきます。
私の研究室では、週に1回、研究チームごとに進捗(しんちょく)報告を行っていますが、研究室に配属されたばかりの学部生は、特にこの「4.残された課題の洗い出し」でつまずきがちです。「こんな素晴らしい従来研究があり、このような結果が報告されている」「もう製品化までされていて、こんなに良い結果も出ている」など、他の研究レベルに圧倒され、「自分にはこれ以上できない……」と諦めてしまう方も少なくありません。
しかし、本当にもう残された課題はないのでしょうか。もし課題がないのであれば、なぜ日常生活を送る中で、その問題がまだ解決されていないと(あなた自身が/学生自身が)感じたのでしょうか。もし本当に課題がないのであれば、既に社会実装され、多くの方がその研究の恩恵を受けているはずです。つまり、論文だけでは見えない課題があるということです。
何が言いたいのかというと、“必要とされるモノづくり”という観点において、「論文や書籍などだけで研究や製品の良しあしを判断することはできない」ということです。
例えば、「歩行を支援する」という研究テーマを設定したとします。
「2.研究背景(社会的課題など)」は少し調べればいくらでも出てきます。高齢による筋力低下、下肢機能障害、脳血管障害後の片まひなどです。街中を歩いていても、足を引きずって歩いている方や、歩行バランスの崩れた方を見掛けることがあるかと思います(私自身もそのような方たちを何とか手助けしたいと思い、このテーマの研究を続けています)。
「3.研究背景に対する従来研究」についても、探せば探すだけさまざまな研究が出てきます。市販されているものもあれば、臨床試験などで有意な差が出ている研究も多くあります。パワーアシストロボット、リハビリ手法、つえや歩行器、インソール(シューズの中敷き)、装具など、工学の分野に絞っても多くの研究成果を見つけることができます。
これらの素晴らしい従来研究を見ると、確かに「もう残された課題はない」と感じてしまうのも理解できます。しかし、街中を歩いていて、それらの研究成果が実際に広く使用されているのを見たことがあるでしょうか。もちろん市販され、多くの方が利用しているものもありますが、ほとんどの場合、そのレベルまでは達していません。
そもそも論文(研究)では、その研究の核となる提案手法があり、そのアイデアの妥当性を評価することで成り立っています。つまり、その研究のアイデアが本当に正しいのかどうか(のみ)を評価しているのであり、その他のさまざまな観点からの評価は通常行いません。
例えば、完璧に理想通りに足が動くようになる装着型ロボットがあり、臨床試験において多くの患者さんで効果が認められた論文も公表されていたとしましょう。つまり、装着することで確かに足が理想通りに動くことが、論文で示されているという仮定です。
この論文を読むと、「もう太刀打ちできない」と思うかもしれません。しかし、その論文が評価しているポイントは、ロボットを装着することで足が理想通りに動くこと、すなわち提案手法が妥当かどうか(のみ)です(もちろん、他の評価も行っている場合はありますが)。
“社会で使えるかどうか”を検討する際には、もっと多角的な観点からの評価も求められます。具体的には、装着性や見た目、価格といった評価も必要ですし、そもそも「患者さんがそのロボットを使いたいと思えるか」がとても重要となります。
もしかすると、論文に掲載されているそのロボットは、非常に重く、騒音も大きく、装着性も悪いかもしれません。また、個人で購入できるような金額ではない場合も考えられます。他にも、論文や書籍を読んだだけでは分からない別の課題が潜んでいる可能性もあります。
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