地政学リスクが高まる中、日本の「モノづくり能力」が再び覇権を握る武器になる。PwCコンサルティングは、フィジカルAIや海洋国家の生存戦略を軸に、日本が世界と主体的に交渉するための「新たな姿勢」の重要性を説いた。
PwCコンサルティングのシンクタンク部門であるPwC Intelligenceは2026年4月22日、3冊目となる書籍『産業融合 インテリジェンスから解く分断・統合・再興』(ダイヤモンド社)の発刊を記念して、トークセッションを開催した。登壇者らは、テクノロジー、地政学、マクロ経済の激変が交差する現代において、「日本の重厚長大産業とモノづくり能力が、再び世界の覇権を握る武器になる」と語った。
かつて日本は、「ロボット大国」として世界の製造業をけん引する存在であった。しかしAI(人工知能)の登場により、産業用ロボットの付加価値はハードウェア単体から、それを制御するソフトウェアへと重きが置かれるようになっている。PwCコンサルティング パートナーの三治信一朗氏はこうした構造変化の中で、「日本はAI分野の波を捉えきれなかった。その結果、生産台数や価格競争力において中国勢にリードされる苦しい時代にあった」と指摘した。
ソフトウェア領域で苦戦した日本だが、「次なる波である『フィジカルAI』を見据えた巻き返しはすでに始まっている」(三治氏)という。フィジカルAIとは、AIがデジタル空間のデータ処理に加えて、ロボットや製造設備などのハードウェアと組み合わさって物理世界に直接作用する技術だ。国を挙げた動きとして新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、フィジカルAIの開発基盤となる“国産AI基盤モデル”の構築を目指し、「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」(2026年4月22日締切)の公募を実施した。同事業は2030年度までの5カ年計画で、2026年度予算案には3873億円が計上されている。
三治氏は、「どれほど優れたAIモデルでも、それだけで現場が動くわけではない。AIを物理空間で機能させるにはIT(情報技術)とOT(制御技術)の融合が不可欠である」と指摘。その上で、「現場で人が実物を見て学び、細やかに改善を繰り返す日本のフルスタックなモノづくり文化は、他国が容易に模倣できるものではない。開発が進む国産AI基盤に、『すり合わせ力』や現場の改善文化が組み合わされば、他国を圧倒する決定的な優位性になる」と強調した。
冷戦後の世界は長らく、需要と供給のバランスや自由競争が規定する「市場の論理」で回ってきた。しかし現在、ウクライナや中東情勢に見られるように、マーケットの論理に従わないエリアが急速に拡大している。
こうした地政学構造変化の中で、東京大学 先端科学技術研究センター 准教授(PwCコンサルティング スペシャルアドバイザー)の小泉悠氏は、日本が資源を輸入/加工/輸出する「海洋国家」であることを再認識すべきだと語った。
「日本を取り囲む『海』は、他国の陸軍力の侵攻を物理的に遮断する防壁であると同時に、資源や製品を行き来させる絶対的な生命線でもある。だからこそ、造船業や輸送能力の維持、強化は単なる一産業の振興策にとどまらず、国家の生存を左右する地政学の基本テーゼとして押さえておくべきである」(小泉氏)
さらに小泉氏は、「有事でサプライチェーンが機能不全に陥ったときに、自国でモノを作り、運ぶことができる『物理的な製造能力』そのものが国家の生命線となっている」と語り、日本が持つ製造業の強さを改めて意識する必要性を説いた。
PwCコンサルティング チーフエコノミストの片岡剛士氏は、「米国が関税を使ってでも製造業を自国へ呼び戻そうとしている現状を見れば、地道にモノづくり能力を保持し続けてきた日本の価値はかつてなく高まっていることが分かる」と述べ、日本の製造基盤のレジリエンスを強調した。
小泉氏は、「テック企業はソフトウェアは作れても物理的な船は作れない。現在でも船や列車といった大規模な物理的インフラを製造する能力を有する日本は、国際社会において強大な発言権と交渉力を持つことになる」と述べ、重厚長大産業が地政学上の戦略的な武器になり得ることを示唆した。
セッションの締めくくりとして三治氏は、「個々のプレイヤー(企業や個人)も、こうした知見を武器に自らの強みを表出し、主体的に世界と交渉できる術を身につける姿勢を持つべきだ」と訴え、産業構造の変化に立ち向かうための新たな姿勢の重要性を説いた。
親書では第1部から第3部にかけて、産業構造の激変やテクノロジーが導く「産業融合」の時代、そして変化を力に変える各分野の勝ち筋を詳説。終章では議論の総括に加え、本書を実務に生かすための示唆や、産業構造の現在と未来への考察をまとめている。
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