近藤氏は「技術情報検索エージェントは、会話形式で検索を行うと、ファクトチェックのために情報源となったi-Tech内の元文章のURLとひも付いて、対象の情報が表示される仕組みになっている。技術情報検索エージェントの導入効果を可視化する目的で、日本ペイントグループ内の技術部門を対象に実証実験を行った。実証実験では、技術情報検索エージェントにより、技術領域の情報収集時間をこれまでと比べてどの程度減らせるかを調べた。その結果、自身の知っている技術領域における情報収集の時間は『10分の1』に、全く知らない新しい技術領域においては『20分の1』となり、技術情報検索エージェントで技術領域の情報収集時間を削減できることが分かった」と成果を明かす。
加えて、「未知の技術を調べる際、これまでは社内のエキスパートを探し出し、担当者が時間を合わせてインタビューをしなければならなかった。手間がかかるため途中で調べるのを諦めてしまうケースもあった。それをAIが瞬時に代替してくれるようになったのは、極めて大きな成果だ」と補足した。
技術情報検索エージェントは新入社員の教育でも効果を発揮している。近藤氏は「これまで新入社員や中途採用者は、業務で分からないことがあるたびに、社内のエキスパートに時間を割いてもらい、手取り足取り教えてもらう必要があった。『Ai-Tech』の技術情報検索エージェントを活用することで、『人が人に教える時間』が削減された。Ai-Techのシステム内には、プロンプトを組んで実装した『理解度テスト機能』も搭載されており、新入社員や中途社員が自己学習により当社の技術などを学べるようになっている」とコメントした。
なお、日本ペイントグループには、技術系の社員が関与した事象を、「アブストラクトカード」と呼ばれる1枚の資料にまとめる独自の文化があり、Ai-Techの開発にはこのアブストラクトカードが活用されている。
近藤氏は「アブストラクトカードには、開発品の情報に限らず、顧客の製造ラインで生じたトラブルや改良の経緯などがまとめられている。Ai-TechのRAG型検索ツールには、過去数十万件分のアブストラクトカードが全て格納されている。そのため、最近特定の顧客を担当することになった社員がAi-Techにより、『過去にその顧客の製造ラインでどんなトラブルがあり、どう解決したのか』という経緯や知見を瞬時に抽出できる。これにより、顧客への適切なアドバイスが可能となり、顧客からの信頼性を高められるようになった」と強調した。
Ai-Techの開発では主に「ハルシネーションの防止」と「データの前処理」が課題になった。
「ハルシネーションの防止」については、日本ペイントグループではAi-Techの開発当初、さまざまな事業部の技術情報をベースに1つのRAG型検索ツールを試作したことが課題認識の起点となった。その検索ツールで対象の技術を検索したところ、生成AIでハルシネーションが起きやすく、高い精度に至らなかったのである。
「当社の技術領域は、粉体塗料、コイルコーティング塗料、建材用塗料、電着塗料など、多岐にわたる。これらの技術を1つのRAG型検索ツールに詰め込んだところ、うまくいかなかった。そこで、事業部の領域ごとにRAG型検索ツールを開発した。さらに、生成AIが塗料の専門知識を正しく理解できるように、専門用語を解説した『システムプロンプト』を各RAG型検索ツールに組み込んだ。これらの各RAG型検索ツールが稼働するプラットフォームとしてAi-Techを開発した。さらに、Ai-Techの技術情報検索エージェントで対象の技術を検索する際に、どのRAG型検索ツールを参照すべきかを入力することで、精度を高めた」と近藤氏は説明した。
技術情報検索エージェントでは、主に工業用塗料を製造/販売する日本ペイント・インダストリアルコーティングス、主に表面処理剤を製造/販売する日本ペイント・サーフケミカルズ、主に自動車用塗料を製造/販売する日本ペイント・オートモーティブコーティングス、主に汎用塗料(建築用、重防食用、自動車補修用塗料)を製造/販売する日本ペイント、主に船舶用塗料を製造/販売する日本ペイントマリン、主要な事業会社ごとに開発されたRAG型検索ツールが参照される。
これにより、各社におけるビジネスユニット別の技術情報検索タスク、主要事業会社の技術情報検索タスク、基盤技術情報検索タスクに対応する。
「データの前処理」への対応は最も苦労したという。「古い技術文献は、(デジタルデータと異なり)テキストの抽出ができないため、光学文字認識(OCR)処理をかける必要があった。また、人間には読みやすいグラフや表組みのデータも、AIにそのまま読ませると高い確率で勘違いを起こす。そのため、表の説明をマークダウン形式で構造化し、AIが電子的に読み取れるテキストへ変換する手間が必要だった。一般的には外部ベンダーのソフトウェアを利用することが多い領域だが、当社ではIT部門やデータサイエンスの人材が連携し、このOCRから前処理に至るプロセスを全て自社で内製化した」(丸山氏)。
なお、Ai-Techの開発は2024年下期にスタートした。近藤氏は「2024年下期から『スモールスタート』で一般工業用塗料の事業部で1カ月間使ってもらい、『間違っている答え』『探しきれなかった情報』をユーザーからフィードバックしてもらう。それをシステム側が回収し、辞書やプロンプトを直すという地道なサイクルを何度も繰り返した。その結果、2024年末までという短期間で全事業部へのスピード導入を実現できた」と触れた。
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