日本は本当に遅れているのか? AI×現場力で始まる日本型モノづくりの逆襲製造業×DX キーマンインタビュー(2/2 ページ)

» 2026年03月05日 08時00分 公開
[三島一孝MONOist]
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AI時代における日本の製造業の立ち位置

MONOist AI活用があらゆる産業でグローバルに広がる中、日本の製造業の立ち位置をどう見ていますか。

福本氏 よく「日本は遅れている」と言われますが、AIに関しては必ずしもそうではないと感じています。モノづくり領域についても積極的に試行錯誤を行っています。ただ、導入されている箇所に偏りがあるように見えます。AIは大きな可能性がありますが、必ずしも日本の製造業が本当に困っているわけではない部分で活用を検討するような動きがあります。それはもったいないと思います。

 私は日本の最大の課題は、少子高齢化で熟練技能者が減っていることだと考えています。これまで現場が担ってきた「考える力(改善)」をどうデジタルで維持し、継承していくかが本当に重要になってきています。そこにAIの力をうまく生かしていくことを考えるべきです。

 マニュアル通りに作る欧米とは異なり、これまでの日本の現場では、現場そのもので改善を進めてきました。人が減る中で、欧米型にシフトするのか、日本型の良さをデジタルで生かすのかを考えるべきです。例えば、熟練技術者が持つノウハウをデジタルで再現するために、従来はヒアリングをしてドキュメントを整備してきましたが、それでも読むだけでは再現が難しい場面がありました。それを、ドキュメントを読み解くAIエージェントや、過去の稼働データとの関連性を分析するAIエージェント、動画データから人の作業の内容を読み解くAIエージェントなどを組み合わせることで、精緻に再現できる可能性が生まれてきています。

 こうしたことは、製造現場でのノウハウがある日本の製造業だからこそできることだと考えます。従来のトップダウン型のITと比べて、AIは細部のデータが価値の源泉であるため、日本のボトムアップ型のスタイルや現場の力と相性が良い。その意味でも、AIを組み合わせることで日本企業はさらに強くなる可能性があると考えています。

MONOist 中小製造業でもこうしたAIの恩恵は受けられるものなのでしょうか。

福本氏 日本の場合は、大企業と中堅/中小企業のDX格差が大きいのが特徴です。ドイツでは、政府や関連機関が費用を出すだけでなく、専門家が現場に入り込んでサポートする枠組み作りが進んでいます。全国の自治体や商工会議所などが近い取り組みは行っていますが、支援する人材も含めて十分だとはいえません。

 日本も補助金だけでなく、こうした伴走型の支援や、デジタル化の基礎体力を上げる支援をもっと充実させていくべきだと考えます。DXの恩恵は中小製造業の方が大きく受けられるものだと思いますので、そこに至るまでの負担を軽減することが求められています。

企業を越えて最適化を目指す時代に

MONOist 日本の製造業のDXについて、ボトムアップ型で全体最適につながらないという声もありますが、その点はどう考えていますか。

福本氏 確かに日本では製造現場中心のボトムアップの動きが強く、ドイツのインダストリー4.0の動きが注目された際も、スマートファクトリーに関する話が中心となり、大きな枠組みで理解していた企業は少なかったように思います。

 ドイツのインダストリー4.0で描かれていたのは、製造現場やモノづくりだけでなく、企業の枠組みを超えた産業システムのライフサイクルマネジメントです。当時は日本企業にはあまり現実的に捉えられていませんでしたが、クラウドなどを含むコンピューティングパワーの活用や、AIやデータ管理などの技術的な要素が整ってきたことから現実的なものとなってきています。「できる環境」が整ってきているからこそ、企業としてどう捉えて、対応していくのかが重要になってきています。

photo 制御盤DXアライアンスのWebサイト[クリックでWebサイトへ] 出所:制御盤DXアライアンス

 こうしたモノづくりを中心としたデジタルでの企業間連携の仕組みは日本でも徐々に広がってきています。例えば、2024年11月に日東工業、マグトロニクス、新エフエイコムは「制御盤DXアライアンス」を設立しました。制御盤の製造は内蔵機器も含めて1社で完結するものではなく、配線なども含め非常に手間がかかるものとなっています。アライアンスを通じて、制御盤の設計や製造に関わるプロセスにおいて、デジタル技術を活用した効率化を産業として進める他、設計、製造、検査、アフターサービスまでをデジタルデータを一気通貫で活用できる仕組み作りを進めています。

 企業内はもちろん、企業間でもデジタルデータを軸に効率化や最適化を進めていく発想が重要になってきていると感じます。

ソフトウェアディファインドの世界はますます広がる

MONOist 今後の技術面で注目している動きはありますか。

福本氏 オートメーションの世界でも「ソフトウェアデファインド(Software Defined)」の流れは間違いなく来ています。ハードウェアとソフトウェアを分離し、制御盤やPLC(プログラマブルロジックコントローラー)の機能をソフトウェアで制御する動きです。これにより、特定のベンダーのハードウェアに依存せず(ロックインされず)、工場全体のラインをソフトウェアで統合的にコントロールできるようになります。

 これまでハードウェアメーカーは、知見をブラックボックス化することで利益を守ってきましたが、ユーザー側が「ロックインされたくない」「自由に機器を組み合わせたい」と考えるようになり、技術的にも仮想化や抽象化が進んだことで、定着が進みそうな形となっています。既に、欧米などではソフトウェアPLCの活用は広がってきましたが、より広い範囲でオープン化やソフトウェア化が進みそうな気配を見せています。

 あとは、そうなったときのセキュリティの問題は、より重視される環境になっています。脅威が深刻化する中でインシデント発生を前提とした対策が求められます。また、インシデント発生を完全に防ぐことは難しいため、透明性や報告、対策などの運用面の整備が必要となります。セキュリティはコストだと見られがちですが「取引のパスポート」として、取引を広げるのに必須となっていくと思いますので、その対応が求められます。

MONOist 日本の製造業が今後、特に意識すべきことは何でしょうか。

福本氏 AIをうまく使いこなす企業とそうでない企業の差は今後ますます大きくなります。そして、AIをうまく使いこなして先行するためには、単にプロンプトの事例をまねするだけでなく「自ら何に使えるか」を考え、変化を恐れずに飛び込む姿勢が重要です。AIはその元となる学習データが重要なカギを握ります。失敗してもそのデータを集め続け、使い方を模索し続けることが、将来的な差別化につながるのです。テクノロジーは進化し続けます。それを使って何ができるかを自ら考え、リスクを取って変化していく企業こそ、さらに強くなっていくでしょう。

 そして、そのためには、経営層がしっかりとテクノロジーに向き合うことが求められます。欧米の経営者はMBA(経営学修士)を持ちつつ工学の博士号を取るなど、文系や理系の枠を超えて、さまざまな判断を行っています。AIなどテクノロジーによって事業環境が大きく変わる中、テクノロジートレンドを見据えつつ、「会社組織や経営がどうあるべきか」を構想する力が求められます。経営層はそういう意識を持ってもらいたいと思っています。

インタビュイー紹介:

福本勲(ふくもと いさお)氏 
アルファコンパス 代表CEO

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 1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRMなどのソリューション事業立ち上げに携わり、その後、インダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」を立ち上げ・編集長などをつとめ、2024年に退職。2020年にアルファコンパスを設立し、2024年に法人化、企業のデジタル化やマーケティング、プロモーション支援などを行っている。また、複数の企業や一般社団法人のアドバイザー、フェロー、NewsPicksプロピッカーなどを務めている。

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 2019年12月にフロンティアワン 鍋野敬一郎氏、電通国際情報サービス(現、電通総研) 幸坂知樹氏との共著で「デジタルファースト・ソサエティ」を出版した。その後、2023年12月に初の単著「製造業DX EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略」、2025年12月に「製造業DX Next Stage: 各国/地域の動向やAIエージェントがもたらす新たな変革」を出版している。


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