トカマク型核融合発電炉の実現で鍵となる「プラズマの制御」――QSTと三菱電機が、トカマク型超伝導プラズマ実験装置「JT-60SA」の真空容器内で「高速プラズマ位置制御コイル」を完成させ、「プラズマの制御」に向け大きく一歩前進した。
量子科学技術研究開発機構(QST)と三菱電機は2025年12月23日、茨城県那珂市にある那珂フュージョン科学技術研究所で記者会見を開き、同研究所内のトカマク型超伝導プラズマ実験装置「JT-60SA」において、2つの「高速プラズマ位置制御コイル(以下、FPPC)」を完成させたと発表した。
QSTは、那珂フュージョン科学技術研究所で1985〜2008年に、臨界プラズマ試験装置「JT-60」を用いて、プラズマの研究を行い、エネルギーの等倍が見込めるプラズマを達成している。
また、2007年には、日本と欧州原子力共同体(Euratom)が協力して核融合発電の早期実現を目指す取り組み「幅広いアプローチ(Broader Approach)活動」に関する協定が発効された。幅広いアプローチ活動では、日本、欧州、ロシア、米国、中国、韓国、インドの国際協力の下、フランスで建設が進められている核融合発電の実験炉「ITER(イーター)」の計画を補完する取り組みも含まれている。
核融合発電は、超高温かつ高密度の環境に水素同位体を閉じ込めることで生じる核融合反応で発生する大きなエネルギーを発電に活用する次世代型の発電方式となる。具体的には、三重水素や重水素を超高温かつ超高圧で加熱しプラズマ状態として双方の原子核を衝突させることで核融合反応を起こし、発生した中性子からブランケットを通して熱エネルギーを抽出し発電に利用する。
核融合反応は太陽の中心でも起きており、エネルギー源となっていることから、核融合発電は「人工太陽」や「地上の太陽」などと表現されることもある。
幅広いアプローチ活動でITER計画を補完する取り組みとしては、最適な運転条件を探るための予備実験や高度なプラズマ制御の試験などを行う「サテライトトカマク装置」の建設、ITERで用いる高耐久性材料を開発する国際核融合材料照射施設、将来の原型炉(核融合発電とその経済性を実証する装置)の予備作業がある。
サテライトトカマク装置の建設として、QSTのJT-60を超伝導プラズマ実験装置であるJT-60SAに改良することになった。2013年に那珂フュージョン科学技術研究所でJT-60SAの組み立てがスタート。2019年には世界最大級の超伝導コイルの搬入と設置が、2020年には本体の組み立てが完了した。2023年にはJT-60SAで初プラズマを達成。2024年1月には加熱装置などの増強工事を開始した。
JT-60SAは、超電導コイルによって内径10mの真空容器内に磁場の“かご”を形成し、その中にプラズマを閉じ込める。核融合出力を高めるためには、プラズマ温度を数億℃にするとともに、プラズマの閉じ込め性能を向上させる必要がある。加熱装置の増強工事はプラズマ温度を数億℃にする目的で行われている。増強している加熱装置は、加速させた高エネルギーの粒子をプラズマに打ち込む「中性粒子ビーム入射加熱装置(NBI)」と、特定の周波数の電磁波をプラズマに照射し中の粒子を激しく振動させて加熱する「高周波加熱装置」だ。
QST 那珂核融合科学研究所 トカマクシステム技術開発部 JT-60本体開発グループ グループリーダー 上席研究員の芝間祐介氏は「強力な加熱を行うと、プラズマから発生する熱負荷が極めて高くなる。これに耐えるため、真空容器内部の構造もアップグレードしている。プラズマに直接接する部分は、熱に強い『黒鉛(カーボン)タイル』や、スペースシャトルの耐熱材に近い高度な素材を採用した。タイルの裏側には冷却配管を巡らせ、熱を効率的に逃がす設計となっている」と説明した。
プラズマの閉じ込め性能向上に関しては、プラズマ中のイオンや電子などの粒子が、磁場によって閉じ込められていても、互いに衝突しながら徐々に拡散し、最終的に真空容器の内壁に向かってしまうという課題がある。このような状況下で閉じ込め性能を高めるためには、プラズマの形状を工夫し、プラズマ自身の圧力で粒子の拡散を抑え、粒子が真空容器の内壁に到達するまでの経路をできるだけ長くする必要がある。現在は、プラズマの断面を縦長の三角形にすることが、閉じ込め性能の向上に効果的だと分かっている。
今回のFPPCは、この三角形の形状を維持するためのコイルで、JT-60SAの真空容器内の上下2カ所に設置されている。プラズマが不安定になり、理想的な三角形が崩れそうになった際に、FPPCに流す電流を調整して磁場を変化させ、プラズマの位置と形状を精密に制御する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
素材/化学の記事ランキング
コーナーリンク