人手不足の日本で期待される「ロボット活用」の世界ディープな「機械ビジネス」の世界(4)(2/2 ページ)

» 2025年12月16日 08時00分 公開
[那須直美MONOist]
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ロボット導入のハードルを下げる取り組み

 このように、先端技術を搭載したロボットを実社会に融合させていくことは、社会的課題を解決する手段の1つとして期待されています。また、社会実装に向けた研究開発においては、産官学だけでなく、私たち一人一人が「ロボットフレンドリーな社会構築に対する関心を高めること」も重要だとえるでしょう。

 ちなみに、ロボット先進国と呼ばれる日本には、ファナック、不二越、安川電機、川崎重工業など、世界シェア上位を占める企業がそろっています。その一方で、ロボット密度(従業員1万人に対して稼働する産業用ロボット数)は4%ほどで、中小企業にとってはまだまだハードルが高く、ロボット導入経験がない企業も多いのが現状です。

 しかしながら、労働人口の減少が深刻化するなかで、自動化の需要は今後ますます高まることは明らかです。そうしたことから、ロボット業界では「導入のハードル」を下げる取り組みが進んでいます。

 例えばエンジニアリングが簡単な協働ロボットの開発を積極化しているほか、ロボットに作業の1つ1つを教え込む面倒な手間が省ける「ティーチングレス」といった仕組みなど、初心者でも扱いやすいロボットプログラミング手法が増えています。これにより、特別なスキルを持たない作業者でもロボットを活用できるようになり、大きなメリットとなっています。

人が「採れない」「定着しない」時代の企業の戦略

 社会的な必要性もあり、今後は「AI(人工知能)とロボットの組み合わせ」が急速に進んでいくとみられています。人手不足でも、AIが判断してロボットが動くことで、効率的かつ安全に作業ができるからです。とりわけ現在、日本企業がロボットを活用した自動化の開発を加速しています。

 その背景としては、わが国が、「働き方改革」と「人口減」に「少子高齢化」が加わる3つの波が同時に押し寄せている「歴史的な転換点」にあることが挙げられます。日本にとって人手不足はもはや単なる課題ではなく、企業の存続そのものを揺るがす構造的問題となっているのです。

 賃金を引き上げても優秀な人材を確保できず、定着率も下がっているという現実は、製造業のみならず、サービス業の現場でも日々経営リスクとして顕在化しています。従来のような、人の数に頼って仕事を進める「人海戦術」に依存した経営はもはや通用しなくなっています。この構造的な人手不足は、根性で乗り越えられるようなものではなく、むしろ科学的、戦略的に解決策を講じる必要のある時代に突入したといえるでしょう。

 そのため、産業用ロボットだけでなく、物流/医療/介護/清掃などサービス分野においても自動化は不可欠で、ロボットの活用は効率化のみならず、事業継承と競争力確保のためには欠かせない取り組みと言っても過言ではありません。

 幸い、日本は世界に誇るロボットメーカーと、ロボットの感覚器官に当たる高精度のセンサー(周囲の状況を感じ取るための装置)やロボットの目に相当するカメラ(モノを認識する)などの高度な技術を有しています。これらの技術力を活用し、現場に即した自動化を実現することは、企業にとって「攻めの投資」でもあり、同時に「リスク回避のための合理的かつ戦略的な最良策」だと言えます。

 この「構造的な人手不足」という社会課題を逆手に取り、技術で解決する企業こそ、今後、成長を実現する可能性を秘めていると、私自身も現場でひしひしと感じています。

著者略歴

那須直美(なす・なおみ)

インダストリー・ジャパン 代表

工業系専門新聞社の取締役編集長を経てインダストリー・ジャパンを設立。機械工業専門ニュースサイト「製造現場ドットコム」を運営している。長年、「泥臭いところに真実がある」をモットーに数多くの国内外企業や製造現場に足を運び、鋭意取材を重ねる一方、一般情報誌や企業コンテンツにもコラムを連載・提供している。

産業ジャーナリスト兼ライター、カメラマンの二刀流で、業界を取り巻く環境や企業の革新、技術の息吹をリアルに文章と写真で伝える産業ドキュメンタリーの表現者。機械振興会館記者クラブ理事。著書に「機械ビジネス」(クロスメディア・パブリッシング)がある。


⇒連載「ディープな『機械ビジネス』の世界」のバックナンバーはこちら

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