脱炭素社会実現のため化石燃料の価格を目指せ! コスモの合成燃料戦略素材/化学インタビュー(2/3 ページ)

» 2025年11月19日 07時00分 公開
[遠藤和宏MONOist]

カギは「目的物の副生成物化」

 「海水電解による“低コストグリーン水素”の製造技術」は、静岡大学が開発し、特許を有している海水の電気分解術「Carbon dioxide Ocean Capture and Reuse(COCR)技術」を指す。COCR技術は、電気化学を応用し、海水中に溶解しているミネラル分によりCO2を固定化するとともに、海水の電気分解により水素を製造する。同技術の社会実装に向けて、コスモエネルギーグループと同大学が共同で研究開発を進めている。

 「COCR技術の特長は、無機塩類や有機物、溶存ガス、微生物/生物粒子、微量元素(鉄、亜鉛、銅)を含む海水を電気分解し、低炭素水素を得られるとともに、カルシウムやマグネシウム、カリウムといった有価金属を回収できる点だ。当社では、副生物である有価金属を販売して得られた資金を用いて、グリーン水素の製造で必要な再生可能エネルギーのコストを相殺することで、e-fuelの価格抑制を計画している。価格はガソリンをはじめとする化石燃料と同等を目指す」(松岡氏)。この共同研究が成功すれば、同社として初の取り組みである金属市場参入を行う見通しだという。

カギは「目的物の副生成物化」 カギは「目的物の副生成物化」[クリックで拡大] 出所:コスモエネルギーホールディングス

 両者は既にラボレベルでCOCR技術の検証を完了している。同検証では、海水から水素を製造しながら、有価金属を抽出できることを明らかにした。海水から分離したCO2を有価金属に固定化できることも分かっている。「今後はスケールアップを行った上で、COCR技術の実証実験を行う」(松岡氏)。

 また、コスモエネルギーグループの千葉製油所(千葉県市原市)、四日市製油所(三重県四日市市)、堺製油所(大阪府堺市)では、石油精製プロセスで生じる熱の対策として、専用の装置で海水をくみ上げ冷却水として使用後に、海に放流している。COCR技術の社会実装に当たっては、各製油所でくみ上げた海水を対象に、COCR技術で電気分解し、水素と有価金属に分離回収することを計画している。

COCR技術で、海洋資源を活用した温室効果ガス(GHG)削減、水素製造、CCUの同時実現 COCR技術で、海洋資源を活用した温室効果ガス(GHG)削減、水素製造、CCUの同時実現[クリックで拡大] 出所:コスモエネルギーホールディングス

実質ゼロコストでセルロース獲得を目指す

 コスモエネルギーホールディングスがS-Bridgesとともに研究開発を進めている「食品加工残渣を利用した有価物/第2世代バイオエタノール製造技術」の手順は以下の通りだ。

 まず、S-Bridgesの抽出システム「Cell Breaker」を用いて、茶殻、コーヒー殻、野菜や果物の皮から、タンパク質、カテキン、カフェイン、その他成分、セルロース系繊維を取り出す。このセルロース系繊維に前処理を施した後、糖化や発酵を順に行い、バイオエタノールとする。タンパク質、カテキン、カフェイン、その他成分はプロテインの原料に使え、抽出工程で生じる残渣は液体有機肥料として使用可能だ。

 Cell Breakerは、独自開発の酵素処理と湿式粉砕により、植物の成分を最適な形で全抽出できるシステムで、有用成分の抽出工程では、セルロース系繊維が副次的に得られる。

食品加工残渣を利用した有価物/第2世代バイオエタノール製造技術 食品加工残渣を利用した有価物/第2世代バイオエタノール製造技術[クリックで拡大] 出所:コスモエネルギーホールディングス

 松田氏は「第2世代バイオエタノール製造のボトルネックである集積/前処理コストを液体有機肥料やプロテインの収益で賄い、実質ゼロコストでセルロース獲得を目指す」と話す。

 木質や草木などの非可食バイオマスを原料として製造される第2世代バイオエタノールの製造ではこれまで、山などで伐採した木をパルプに加工して、パルプからセルロースを抽出した後、バイオエタノールとしていた。そのため、セルロースを抽出するまでに高いコストを要していた。

 松岡氏は「国内の食品メーカーなどでは、食品加工残渣を廃棄する際に処理費用がかかっている。当社がそれらの食品加工残渣を回収することで、食品メーカーなどは廃棄で要する処理費用を削減できる。そのため、食品加工残渣を提供したい企業と協力関係を結べるとみている」と述べた。

 なお、コスモエネルギーホールディングスでは同技術の実証実験を2026年に開始する見込みで、将来は食品加工残渣を提供する協力企業を募る考えだ。

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