HEVの技術を直流マイクログリッドに展開、ダイハツと豊田中研がトヨタ九州で実証脱炭素(2/2 ページ)

» 2025年10月08日 06時30分 公開
[朴尚洙MONOist]
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直流マイクログリッドシステムはHEVの電動システムと類似

 ダイハツ工業は、先述したバイオガス実証プラントをきっかけに発電した電力を有効活用するマイクログリッドシステムの開発に2021年から取り組み始めた。2022年には、小規模マイクログリッドシステムに適した電力変換器を研究していた豊田中研との共同開発に移行。2023年には、自動車部品の技術やノウハウを用いて改良を重ねたマイクログリッドシステムを試作し、ダイハツグループ九州開発センター(福岡県久留米市)の事務棟に導入して技術検証を実施している。

ダイハツ工業と豊田中研によるマイクログリッドシステム開発の沿革 ダイハツ工業と豊田中研によるマイクログリッドシステム開発の沿革[クリックで拡大] 出所:ダイハツ工業

 また、新開発の直流マイクログリッドシステムはHEVの電動システムと構造が類似しており、ダイハツ工業にとっても自社が持つ技術とノウハウを応用する上での親和性が高かったという。

直流マイクログリッドシステムはHEVの電動システムと構造が類似 直流マイクログリッドシステムはHEVの電動システムと構造が類似[クリックで拡大] 出所:ダイハツ工業

 マイクログリッドシステムの開発を進めてきたダイハツ工業と豊田中研にとって課題になっていたのが、技術検証の先にある実証に最適な再エネや蓄電池の設備が整った施設が見つからなかったことだった。一方、トヨタ自動車九州は、工場内に太陽光発電や蓄電池があるものの有効活用できておらず、再エネの電力を生産ラインに使用するための仕組みがないことが課題だった。3社のニーズが合致したことにより、今回の実証実験の実施につながったという。

「SPH」は世界初の3方向接続を可能にする電力変換器

 新開発のマイクログリッドシステムで中核的な役割を果たすSPHは、1個のユニットで発電/蓄電/使用の3方向接続を可能にする「世界初」(豊田中研)の電力変換器である。

「SPH」は1個のユニットで発電/蓄電/使用の3方向接続を可能にする 「SPH」は1個のユニットで発電/蓄電/使用の3方向接続を可能にする[クリックで拡大] 出所:豊田中研

 SPHを中核とする直流主体のマイクログリッドシステムは、従来の交流主体の電力変換システムと比べて電力変換の回数が3分の1に削減できている。このことにより、電力変換によるエネルギー損失を45%削減できたという。

「SPH」は電力変換の回数を9回から3回に削減できる 「SPH」は電力変換の回数を9回から3回に削減できる[クリックで拡大] 出所:豊田中研

 SPHの外形寸法は幅520×奥行き830×高さ450mmである。SPH単体でほぼ全ての電力変換機能を実現できているため、インバーターや大型の商用トランス、DC-DCコンバーターなどが必要な交流主体のマイクログリッドシステムと比べてシステム体積を約10分の1に削減できている。商用トランスを必要としない高周波絶縁トランス技術や、DC-DCコンバーターを不要とする独自統合回路技術、ヒートシンクなど実装部品を小型化できるインバーター高周波制御技術など、HEVの電動システム開発の技術やノウハウを生かした。

「SPH」は交流主体のマイクログリッドシステムと比べてシステム体積を約10分の1に削減できる 「SPH」は交流主体のマイクログリッドシステムと比べてシステム体積を約10分の1に削減できる[クリックで拡大] 出所:豊田中研

 SPHにほぼ全ての電力変換機能を集積することによりμ秒レベルの高速制御も可能になった。マイクログリッドシステムでは、電力の使用量に対して、再エネの発電量と蓄電池の充放電量を最適化するためにそれぞれのシステム間での外部通信によって協調制御を行っている。しかし、再エネ発電の変動などに対して外部通信による協調制御が間に合わず遅延が発生し、電力供給不足による瞬停が発生する可能性がある。これに対してSPHは、ユニット内で太陽光発電の変動に即応し、μ秒レベルで蓄電池の充放電力を制御しで瞬停を起こさないことができる。

「SPH」はμ秒レベルの高速制御も可能だ 「SPH」はμ秒レベルの高速制御も可能だ[クリックで拡大] 出所:豊田中研

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