1人で複数の工程や機械設備を担当して生産性を上げる「連合作業分析」の効果現場改善を定量化する分析手法とは(15)(3/3 ページ)

» 2025年09月24日 06時00分 公開
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3.バランスロス分析(Balance Loss Analysis)

 「バランスロス分析」は、ラインバランシング(Line Balancing)の一部として使われる重要な指標で、生産ラインの効率を数値化するために用いられます。

 一連の複数工程の組み立てや加工などで、各作業者あるいは機械設備間の時間的負荷のアンバランスを分析する手法です。分析の目的としては、作業効率の向上、機械設備効率の向上、リードタイムの短縮などが挙げられます。バランスロス分析を活用して、作業者間の負荷のアンバランス工程を特定して改善します。

3.1 バランスロス分析の狙い

 ラインのバランスロスを最少化することによって、配置人員の最適化による労働生産性の向上や原価低減などの効果を得られます。

 また、バランスロス率の低減施策としては、生産ピッチタイムの可視化による作業時間のバラツキの改善、ボトルネック工程を監視してラインのピッチタイムを改善することによる生産能力の向上改善、各種改善の継続実施による作業の再配分や工程数の削減、作業の再配分などによる労働生産性の向上などが挙げられます。

 複数ある工程の中で、他工程と比較して最も長い工程の作業時間をピッチタイムやサイクルタイムなどと呼びます。生産ラインの各工程は、ピッチタイムを周期として同一作業を繰り返し、次から次へと流れてくる製品あるいは半製品を生産します。従って、工程時間がピッチタイムに満たない工程は手待ち時間が生じてしまいます。手待ち時間はライン編成上の不備であり、バランスロスといいます。

3.2 手作業ラインの場合

(1)分析のポイント

  • (a)作業者単位に動作レベルで作業分析します
  • (b)分析は原則として、使用する身体部位によって動作を区分し、「同じ身体部位で、他の条件が同じならば、作業の所要時間は動作距離に比例する」という考えに基づくWF法(Work Factor Plan)で行います。ただし、実際の作業時間をストップウォッチで測定するストップウォッチ法(Stopwatch Method)で分析する場合は、観測対象の標準作業時間と実測した時間値を比較し、標準の作業条件で行われた場合に換算してどのくらいの時間が必要なのかを考慮して観測時間値を修正するレイティング(Rating)を行うことが必要です。
  • (c)一定個数ごとや一定時間ごとに発生する付随作業、例えばパレットの交換、部品箱の整理などは、加工品1個当たりに換算して正味時間に付加する

(2)ライン編成効率(ラインバランス)

 ライン編成効率とは、生産ラインの効率性を評価する指標であり、どれだけスムーズに、無駄なく作業ができているかを示す数値のことです。ライン編成効率により、ライン全体の作業効率とロス時間の割合を客観的に評価できます。

 組立ラインのライン編成効率は、作業の順序に従って要素作業を直列に配置した各工程に対して、作業量がなるべく均一になるように配分します。作業の順序関係や制約条件に基づいて、要素作業を直列に連続する作業工程へ配分する手順と、工程時間の均一化を図る手順という2つの手順を用いて行います。このような作業配分には、例えばネジ1本単位で行うくらいの細心の注意を払う必要があります。

 ライン編成効率を改善する方法としては、工程間のバランスを取る、無駄な動作を省く、作業ステーションの最適化を行う、不必要な工程分割を防ぐ、効率の悪い工程へ人員を配置するなどの施策が挙げられます。作業者の動作を分析し、効率を向上させる手法として有効です。ライン編成効率の算出式は以下の通りです。主として、ネック作業時間を特定し、改善策を立案します。

ライン編成効率

(3)バランスロス率の算出式

 バランスロス率(Balance Loss Rate)は、各作業工程の作業時間のばらつきによって生じる「無駄な時間」の割合を示す指標です。

 バランスロス率は、編成効率(ラインバランス)の逆数です。運用としては、編成効率あるいはバランスロス率のどちらを使用してもよいでしょう。

 バランスロス率が高いと次のような問題が発生します。作業者の手待ち時間が増加する、工程間の中間仕掛かり品が増加して運搬の無駄が発生する、ボトルネック工程の作業時間が影響して生産性が低下するなどです。

 バランスロス率は0%に近い方が好ましいのですが、特に15%を超えるとライン作業のメリットが生かされにくくなるので何らかの改善が必要になるといわれています。

バランスロス率

(4)バランスロス分析の事例

 図3は、6人編成組み立て作業におけるバランスロス分析の事例です。

6人編成組み立て作業におけるバランスロス分析の事例 6人編成組み立て作業におけるバランスロス分析の事例[クリックで拡大]

3.3 機械設備作業ラインの場合

 タクトの異なる複数台の機械設備が物理的に連結されているラインについても、手作業ラインと同様の分析によってライン編成効率を求めることができます。

 機械設備の正味時間タクトタイムでライン編成効率を求めるのが分析のポイントであり、これによりネックタクトの改善資料として活用できます。なお、段取作業、ツール交換、廃材処理などのシステムの起因に関わる不稼働時間と、故障やチョコ停などの稼働に起因する不稼働時間を、1個当たりに換算して正味時間タクトタイムに付加して用います。分析はSW法で行います。

◇     ◇     ◇     ◇

 1人の作業者が、複数の機械設備や工程を担当する場合、多数台(多工程)持ちに該当する機械設備や工程を直列的に配置すれば、作業者は各機械設備や工程を渡り歩く作業方法なので、必ず最初の機械設備や工程に戻ってくる必要があります。この歩行動作に伴うロスタイムは機械設備や工程を円形に配置することで解消されます。つまり「INとOUTの連携」という切れ目のない配置をする必要があります。

 その際、左回りと右回りのどちらが良いのかという問題がでてきます。この解決には「左回りの法則(左回り理論)」を適用します。この法則によると、人は自然と「左回り(反時計回り)」に行動してしまうとされています。例えば、道が左右に分かれている場合に、人は無意識に左を選びやすい傾向があるとされていることも、左回りの法則を裏付けています。

 人がなぜ左方向を好むのかについては諸説あります。例えば、「利き足が右だから」という説があります。多くの人の利き手が右であるのと同じように、利き足も右が圧倒的に多く、そのため身体の向きを変えるときには左脚を「軸足」とし、右足から進む方が容易であるため「身体は左に回転しやすい」というのが「利き足説」です。陸上競技のトラックは国際ルールで左回りと定められており、スーパーマーケットの順路も多くの場合は左回りです。(次回に続く)

筆者紹介

MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)

日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。



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