AI Directorは、インテリジェントなデータ収集とアクションを自動化し、SDVを実現するための製品だとしている。これにより、パーソナライズされた車内体験やドライバーに合わせたパワートレインの最適化などが可能になる。また、センサーの仮想化という技術開発が進められている他、車両の状態を見守るヘルスモニタリングや予知保全のためのデータ活用にも対応する。サイバーセキュリティや脅威検知、車両の異常などの問題をリアルタイムに診断できるようにもなる。
ただ、AIを車内に持ち込むのはまだ課題が多い。開発の工程が複雑で、自動車メーカーやサプライヤーの組織内でも多くのチームが関わらなければならない。「データサイエンティストやAI、機械学習といったソフトウェアのエンジニアに加えて、車両の開発者など、ステークホルダーが多くなると場当たり的なアプローチをとることになったり、全体的な複雑性が増して車両にAIを搭載すること自体が難しくなったりする」(ソナタス プロダクトマーケティング責任者のサンジェイ・カトリ氏)
AI Directorを使うことで、開発者は適切な車両のデータを使ってAIモデルの開発に当たれる。複数のサプライヤーが供給する異なるECU(電子制御ユニット)に対して最適化や検証も行うため、モデル開発時にはハードウェアにモデルを展開しやすくなるという。ECUに対して展開するときには、適切なデータソースに接続できるようになるという。AIモデルが正しいタイミングで実行され、必要以上のリソースを消費しないようにする他、AIモデルの実行状況の継続的なモニタリングにも対応する。
AI Directorによって、AIモデルの開発者は開発車両のデータシグナルがどのようなものか知る必要がなく、特定の車両にも対応できる。また、開発者はどんなECUなのか、どの半導体なのかをモデルを開発する際に知らなくてもさまざまなハードウェアに対して最適化できるようにモデルを作っている。
車載のエッジAIに関しては社外と協力した3つのユースケースがあるという。いずれもNXPの「S32G」で実行できる。ハードウェアアクセラレーションを使わずにNXPのソフトウェアを少し最適化すればよいという。
1つはCOMPREDICTのバーチャルセンサーだ。AIが物理的なセンサーを代替して、ヘッドライトレベリングを実現する。道路の傾斜や荷物の増加などによる車両の傾きを検知して、それに合わせてヘッドライトの上下の角度を調整する機能だ。ヘッドライトレベリング専用のセンサーをなくすことで、車両のコスト削減や開発期間の短縮に寄与する。ヘッドライトレベリングはS32Gの8コアのうち、1コアの4%のリソースで動作できるという。
2つ目は、VicOneによる大規模言語モデルを活用した侵入検知システムだ。8コアのうち5コアのリソースをフルに使い切る必要があるが、実行するのは走行中である必要はない。実行するのは駐車中や夜間に設定できるよう、管理している。Qnovoによるインテリジェントなバッテリーヘルスマネジメントも、ユースケースの1つだ。
ソナタスの製品は、特定のAIモデルに対してリソースを仮想化し、コンテナ化できるネットワーク管理能力が強みである。AIモデルに対して入力しなければならないデータをどのように確保して、効率的にタイミングよくやれるのかが重要だとし、CPUやメモリなど全てのリソースを厳格にモニタリングし、レイテンシやリソース配分の効率性を確認している。
ソナタスの製品が手掛ける領域は、自動車メーカーが自前で取り組む場合もある。「自動車メーカーが価値の提供に集中し、価値の構成要因をソナタスがサポートすることで、SDVのスピードアップにつなげていきたい」(カトリ氏)
AI Directorに関してもさまざまな競合ベンダーがいるものの、多くはクラウドベースのAIエージェントに重点を置いている。「エッジ側にツールチェーンを置く会社は他になく、多岐にわたるECUやAIモデルをカバーしている点も特徴だ」(カトリ氏)
こうしたソナタスの製品はヒョンデグループ向けに専用で開発したものではない。どのような自動車メーカーにも適用できる汎用性を持たせたとしている。自動車メーカーに固有の電子プラットフォームや車両のデータ管理方法などに合わせてカスタマイズする。自動車メーカーは自前のデータを使うことができ、モデルチェンジなどで変更を加える場合もソナタスがサポートする。
車両のデータは自動車メーカーごとに異なるため、ソナタスはデータの標準規格としてCOVESAの「VSS」を採用している。自動車メーカーに固有のフォーマットやデータ信号がある場合はVSSに変換する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.