UNI-ONEの乗員の最大重量は110kg。3歳以上が利用できる。車いすユーザーでも、座位(座った状態)を維持できればUNI-ONEに乗れる。子どもでも乗れるようにするため、ハンドルやレバーなどの操作系は設けず重心移動で動けるようにした。手元に小さなディスプレイがあり、乗車状態のローポジションから走行可能なハイポジションに切り替える必要がある。また、乗車したまま安定してその場に静止できるようにするためのソフトブレーキも手元で操作できる。
「3歳ではレバーの動かし方を説明しても理解するのは難しいが、重心移動ならすぐに動き方が分かるようだ。動かし方を頭で考えすぎる大人よりも、かえって小さい子どもの方がすぐに乗りこなすことも多い」(UNI-ONEの担当者)
ハンズフリーで移動できるため、UNI-ONEに乗る人が歩行者と手をつなぐことができる。歩く人と共存し、家族などが「一緒に移動している」と感じられるようにした。実際に乗ってみると、操作に手を使わないため、初めは手持ち無沙汰で重心を移動させるのが難しく感じたが、手を膝に置くと動かしやすくなった。手に何か持っている方が運転しやすい場合もあるという。
歴代のホンダのパーソナルモビリティは立ち乗りタイプもしくは一輪車に似た着座タイプだった。乗るためにバランスをとること自体が歴代のパーソナルモビリティでは面白さにもなっていた。ただ、子どもや高齢者、車いすユーザーの「乗ってみたい」という声に応えて転倒しにくくするため、左右にオムニトラクションドライブシステムを配した二輪とした。乗り降り時や緊急時の転倒を防止する補助輪もついている。オムニトラクションドライブシステムは駆動輪と駆動ベルト機構のそれぞれが回転することで前後左右に移動可能で、ニデックドライブテクノロジーと共同開発した。
UNI-ONEは重心の動きを使ってバランスを取り続ける。倒立振子の原理で、ほうきの柄を手のひらに立てて倒れないように手を動かし続けるのと同じだ。立って歩くときと近い固有周波数のため、歩くような感覚で移動できるという。行きたい方向に体を動かすとセンサーが姿勢や重心の変化を感知する。制御器が意図を解析して制御し、車輪機構が全方位に応答する。
人と協調しながらバランスをとる制御は、座位でバランスをとることが難しい人のリハビリトレーニングにも役立つという。UNI-ONEを動かす練習を重ねることで体幹と身体バランス感覚が徐々に改善し、UNI-ONEを動かせるようになったことで屋外を散歩できるようになったケースがある。
UNI-ONEは不特定多数が人と混在する空間で走るため、乗る人にも一緒に歩く人にも違和感やストレスのないデザインを目指した。安心感を与える柔らかい印象のフォルムだ。乗降時は低いローポジションだが、動き出すとハイポジションになり浮遊感を強調する。先進性と安心感を両立しながら、乗っている姿が自然に見えるよう、乗り手を主役にするデザインにしている。人混みで違和感のないコンパクトなサイズにするため、駆動システムの小型化を重視した。「ASIMO」で取り組んできた小型集積化も参考にした。
人混みでも自由に移動できるようにするため、衝突回避用のセンサーや減速機能は搭載しなかった。思うような速度を出せず、不自由に感じられると判断した。UNI-ONEに乗って他の歩行者と接触してしまった場合は、生身の人間同士がぶつかったときと同じようにエネルギーを分散し合うため、危険はないとしている。
「UNI-ONEが歩いている人とぶつかっても、UNI-ONEが歩行者を跳ね返すのではない。“おっとっと”とよろめいて姿勢を立て直す。全方位に動けるので、斜めにぶつかってしまえば斜めに動くし、真横でぶつかれば真横に動いて歩行者とUNI-ONEがエネルギーを分散する。UNI-ONEがとがったところのない、丸みのあるデザインであることも安全に寄与している。補助輪として出ている部分も柔らかさを持たせており、クルマでいうバンパーのような役割を果たす。UNI-ONEの領域には安全に関する規格や基準はないが、仮説を立てながら安心して使ってもらえるところを探ってきた」(ホンダ コーポレート事業開発統括部 新事業開発部 UNI-ONE事業ドメイン チーフエンジニアの小橋慎一郎氏)
背もたれやひじかけなど今後変更する余地もあるが、ひとまず背もたれは作らず、腰をサポートする程度の高さにとどめた。車いすユーザーが「背もたれが高いのは(自身の症状で必要だったとしても)見た目がよくないと感じる」と指摘したことを踏まえた。また、乗った高齢者が老いや体の不自由さを実感して弱弱しい気持ちになるシニア然としたデザインにせず、誰もが乗ってみたいと思うデザインを追求した。
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