フッ素ゴムの中でも最高レベルの耐薬品性、耐熱性、耐プラズマ性を持ち過酷な環境でも劣化しにくいFFKMは、半導体製造に欠かせない。しかし、PFASが環境問題として注目されたことにより、市場の要求に変化が起きている。AGCが満を持してリリースしたフッ素ゴム製品「SFグレード」は、その変化に対応するための課題を解決する切り札となるのか。開発者が語る、新製品に込めた思いと今後の展望とは。
AGCは、フッ素ゴム「AFLAS(アフラス) FFKM」シリーズの新たなグレードとして、製造時に乳化剤やフッ素系の重合溶媒を一切使用せずに製造したSFグレードを2025年7月に発売した。
同社 化学品カンパニー フロロポリマーズ事業部 事業部長の永井隆史氏と、同部 レジン戦略グループの肥山美奈子氏に、SFグレードの開発背景、特徴、今後の展開について聞いた。
MONOist SFグレードの開発背景について教えてください。
永井氏 開発背景には「欧州でのPFAS規制の動き」と「半導体業界からの要望」がある。
欧州では有機フッ素化合物(PFAS)に対する規制の議論が活発化している。結論はまだ出ていないが、用途ごとのリスク評価に応じて、将来的にPFASの規制が進む可能性がある。これらの動きを受け、製造工程で乳化剤やフッ素系の重合溶媒を使用しないフッ素ポリマーへのニーズが世界的に高まっている。
半導体製造装置では、250℃を超える高温やさまざまな薬品に耐性があるという理由で、エッチング工程などで利用するO(オー)リングにフッ素ゴムが利用されている。しかし、欧州でのPFAS規制の動きを踏まえて、半導体業界では、予想される規制内容に対応した素材を製品に使いたいというニーズが高まっている。
AGCはこれらの市場ニーズに応えるため、従来の製品と同等の性能を保ちながら、乳化剤とフッ素系重合溶媒を一切使用しない独自の製造技術「Surfactant-Free & Fluoro Solvent-Free Technology」により、このSFグレードを製品化した。
MONOist つまり、SFグレードは新たな市場のニーズに応えたフッ素ゴムということですね。概要や特徴についても教えてください。
肥山氏 SFグレードは、市場ニーズへの対応だけでなく、従来品と同等に、フッ素ゴムに求められる高い耐熱性と耐薬品性も備えている。そのため、半導体製造工程のエッチングや成膜工程における過酷な環境(250℃以上の高温でプラズマや各種薬品の使用)でも、劣化しにくい特性を持っている。
2025年7月に発売したSFグレードは、高耐熱タイプの「AFLAS FFKM SF-5500」だ。
AFLAS FFKM SF-5500は、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロアルキルビニールエーテル(PAVE)の共重合体のパーフルオロフッ素ゴムで、その骨格に由来して、耐薬品性、耐油性、耐溶剤性が特に優れている。さらに、ニトリル官能基を架橋点として採用することにより300℃以上の耐熱性も有しており、半導体製造装置用途、宇宙/航空機用途、資源掘削用途向けのガスケット、パッキンなどのシール材用途に向いている。当社は、その中でも、半導体チップの微細化/高集積化により成長が見込まれるエッチング用途への販売を最重要視している。加えて、プラズマ照射によりパーティクル発生の原因となる充填材を添加することなく十分な硬さや強度を発揮し、シール材として適切に機能するため、第1弾として同製品から販売を開始することとした。
MONOist 今後の展開について教えてください。
永井氏 今後もSFグレードのラインアップを順次拡大する考えだ。将来は、既存のフッ素ゴム製品を利用しているユーザーに対し、SFグレードを訴求し、より多くの産業分野でAFLAS FFKM SFシリーズの提供を目指す。
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