――3Dプリンタの工程を詳しく教えていただけますか。
松崎氏 3Dプリンタ(図4)は、同時に24本(最大48本まで)のノズルから、直径1mm、長さ2cmのファイバー形状を1分半で出力できます。100本のファイバーを5分以内に出力可能であり、ファイバーが100本あれば、1.5cm角、高さ2cm程度の培養肉を作ることができます。例えば、2021年に「Nature Communications」に掲載されたわれわれの培養牛肉は、実際の霜降り肉の組成を参考にして、筋肉42本、脂肪28本、血管2本の合計72本を使って作りました。
松崎氏 出力されたファイバーは、灌流培養装置によって自動で培養されます(図5)。細胞を含むインクは液体ですが、チキソトロピー性(力を加えると液状になり、刺激を与えない状態では固体のように振る舞う性質)を持つサポートバス中に出力されるため、ファイバーの形状を保つことができます。
松崎氏 細胞同士だけでは接着して形状が固まるまでに時間がかかるため、このインク中には、かさぶたを作るのと同じ成分(フィブリン)が含まれています。その反応により、ファイバーの周囲に約1時間で“殻”が作られます。その後、37℃まで温度を上げてゼラチン製のサポートバスを溶かし、培養液に置き換えて灌流培養を実施します。
――立体形状を作るために、さまざまな工夫がなされているのですね。線維は2次元といえそうですが、3次元の出力は検討していますか。
松崎氏 3Dプリンタであれば立体的な形状を作ることは可能ですが、われわれの目的は線維を持った本物に近い肉を作ることなので、ファイバー形状の出力に使用しています。文字や絵を描きたい場合は、ファイバーの断面でドット絵として表現できます。
――ファイバーから塊肉への成形は、どのように行っていますか。
松崎氏 当初は人の手で行っていました。繊維同士をくっつけるには、レストランなどで肉の成形に使用される食品添加物のトランスグルタミナーゼ粉末による化学的結合を利用します。現在はロボットアームを使用しており、人の手だと慣れても2時間かかっていた作業が、数分でできるようになりました。
現在はプリンタ、培養装置、束ねる装置が別々にありますが、それらを1つにまとめてコンパクトにした装置が、万博で展示しているコンセプトモデル「ミートメーカー」です(図6)。
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