三菱電機のリニアトラック、先行する海外勢との差別化要素とはFAニュース(1/2 ページ)

三菱電機は、リニアトラックシステム「MTR-Sシリーズ」の受注/出荷を開始した。同種のシステムでは海外メーカーが先行している中、国内メーカーとしてどのように展開を図るのか、担当者に話を聞いた。

» 2025年08月20日 06時00分 公開
[長沢正博MONOist]

 三菱電機は2025年4月に、リニアトラックシステム「MTR-Sシリーズ」の受注/出荷を開始した。ただ、同種のシステムでは海外メーカーが先行している。国内メーカーとしてどのように展開していくのか、担当者に話を聞いた。

さらなる生産性向上へ、幅広い業界から引き合い

三菱電機のリニアトラックシステム「MTR-Sシリーズ」 三菱電機のリニアトラックシステム「MTR-Sシリーズ」[クリックで拡大]

 リニア搬送装置は、主に搬送用レール側のコイルに通電させることで磁界を発生させ、永久磁石を内蔵したキャリア(可動子)を移動させ、ワークを搬送する。

 三菱電機のリニアトラックは、永久磁石を内蔵するキャリアの他、キャリアへの指令を作成するモーションユニットやリニアトラックを統括制御するリニアトラック制御ユニット、キャリア駆動用コイルとスケールを内蔵するモーターモジュール、モーターモジュールを制御するモータードライバ、ガイドレールを含むガイドモジュールで構成される。

 キャリアのラインアップは2種類。幅48mmで可搬重量3kg、最大速度4m/s、最大推力140Nのタイプと、幅98mmで可搬重量10kg、最大速度4m/sで最大推力300Nのタイプがある。ただ、1つのトラックに2種類の可動子を混在させることはできない。

 ガイドモジュールは直線、真円、曲線のラインアップがあり、継ぎ目箇所や据え付け工数を削減する連結ガイドモジュールも用意している。リニアトラックは水平方向だけでなく、垂直方向にも配置できる。ただ、万が一の際のキャリアの落下を防ぐため、垂直配置時において垂直部分に直線部を配置できない。

 キャリアの速度や位置、間隔などは個別に自由に制御できる。そのため、ベルトコンベヤー搬送などに比べて高効率になりタクトタイムが短縮できる他、搬送レールはモジュール構造になっているため段取替えも容易でレイアウトの自由度が高い。トラック上でワークに加工を施すことなども可能なため、従来のように加工するためにトラックからワークを移し替えるためのスペースが要らなくなり、装置設置面積の削減につながる。大きなサイズのワークを2つのキャリアで挟み込んで運ぶなど、メカ機能の段取替えを要さずに各種ワークに対応できる。

 CC-Link IE TSNに接続できる周辺機器との同期制御も可能だ。「ワーク停止時間を最小限に抑えられる」(三菱電機 名古屋製作所 ドライブシステム部 ドライブシステムリニアトラック開発課 H/W開発チーム 主任の鈴木康広氏)。現状のシステムはPLCベースとなっているが、今後、産業用コンピュータ(IPC)対応も構想している。

 リニア駆動のため速度リップルが小さく、低振動と高速化を両立する。これは、カメラでキャリア上のワークを検査する際の高速化などにつながる。周回運動によって、往復運転となる直線タイプのリニア搬送装置に比べてタクトタイムを短縮する。

三菱電機が「2023国際ロボット展」で行ったリニアトラックのデモンストレーション[クリックで再生]

 三菱電機は「2023国際ロボット展」において、リチウムイオン電池の組み立て工程を模したデモンストレーションとともに当時開発中だったリニアトラックを初披露した。

 三菱電機 名古屋製作所 サーボモータ製造部 サーボモータ応用技術第二課 チームリーダーの伊藤将太氏は「現在は電池に限らず、食品やサニタリ―など幅広い業界から引き合いをいただいている。さらなる生産性の改善や効率化を求める中で、リニアトラックが着目されている。直線だけのリニア搬送装置では、キャリアが同じ直線で“帰って来る”時間が生じる。トラック形状なら循環動作ができるためより無駄がない」と語る。

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