ギガキャストの他にも「メガキャスト」という言葉が使われることもある。どちらも自動車部品の製造に使われる大型のアルミ鋳造技術だが厳密な定義は存在しないようだ。ただし一般的には、型締め力が4000〜6000トン程度のものをメガキャスト、それ以上のものをギガキャストと呼ぶことが多い。
ここまで解説してきた通り、ギガキャストはより大きな部品を、特に高圧で型締めした大型の精密鋳型に高速/高圧で溶融金属を注入して一体成形する技術であり、メガキャストは、ギガキャストよりもやや小さい部品を、より低い圧力で成形する技術といえるだろう。以下に、ギガキャストとメガキャストの特徴をまとめた。
比較項目 | ギガキャスト | メガキャスト |
---|---|---|
鋳造する部品のサイズ | 超大型(例:自動車のアンダーボディー、ボディーフレーム) | 大型(例:自動車のエンジンブロック、サスペンションアーム) |
圧力 | 高圧 | 中圧〜高圧 |
適用例 | 自動車のボディー構造、電池ケース、シャシーなど | 自動車のエンジン、サスペンション、トランスミッションなど |
メリット | 部品点数と金型の大幅削減、製造プロセスの簡略化、コスト削減、軽量化 | 部品点数削減、製造プロセスの簡略化、軽量化 |
デメリット | 初期投資が大きい、設計の自由度が低い、冷却時間が長い | 初期投資が大きい、設計の自由度が低い、冷却時間が長い(ギガキャストよりは短いことが多い) |
その他 | 自動車業界で注目されている技術 | 従来のダイカスト技術をベースに大型化 |
代表的な採用企業 | テスラ、トヨタ自動車など | ホンダなど |
表1 ギガキャストとメガキャストの比較。どちらの技術も、従来の製造方法に比べて、部品点数の削減、製造工程の簡略化、車体の軽量化などのメリットがある |
ギガキャストの導入に当たっては、4ページ目の4章で示したギガキャストのデメリットにあるように、従来のサプライヤーへの部品発注や需要が低下してしまうため、関連するサプライヤーは新たなビジネスモデルへの適応が求められる。特に中小企業にとっては、導入ハードルが非常に高いので、コンソーシアム、国や地方/県内における協会/団体の設立といった支援対策/体制が必要となる。
ギガキャストは、自動車メーカーを中心に世界的に導入が進みつつある。特に、中国や韓国の企業が積極的にこの分野に参入しており、技術競争が激化している中、今後の対応が重要になる。
ギガキャストといっても、基本的にはダイキャスト成形である。つまり、高精度、高品質、そして剛性が求められる製品に適しており、精密部品の一体成形が求められる業界にとっては導入価値が高い技術である。
IoT(モノのインターネット)やAIを活用することで、ギガキャストの生産工程を最適化することが可能である。つまり、DX(デジタルトランスフォーメーション)の強みであるリアルタイムデータの活用、IoTが得意とするリアルタイムセンシング技術などを活用することで、成形中の製品や機械の正常あるいは不良、不具合、異常などを検知し、AI技術で学習させて、より精度の高い予防保全を実現し、安定しておりかつ安心を得られるような高い信頼性の高効率な生産を実現できる。
次回は、ギガキャストの基本技術となるダイカスト法の歴史やギガキャストに至るまでの進化について解説する。(次回に続く)
武藤 一夫(むとう かずお) 武藤技術研究所 代表取締役社長 博士(工学)
1982年以来、職業能力開発総合大(旧訓練大学校)で約29年、静岡理工科大学に4年、豊橋技術科学大学に2年、八戸工業大学大学に8年、合計43年間大学教員を務める。2018年に株式会社武藤技術研究所を起業し、同社の代表取締役社長に就任。自動車技術会フェロー。
トヨタ自動車をはじめ多くの企業での招待講演や、日刊工業新聞社主催セミナー講演などに登壇。マツダ系のティア1サプライヤーをはじめ多くの企業でのコンサルなどにも従事。AE(アコースティック・エミッション)センシングとそのセンサー開発などにも携わる。著書は機械加工、計測、メカトロ、金型設計、加工、CAD/CAE/CAM/CAT/Network,デジタルマニュファクチャリング、辞書など32冊にわたる。学術論文58件、専門雑誌への記事掲載200件以上。技能審議会委員、検定委員、自動車技術会編集委員などを歴任。
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