移動できるロボットやそれによるサービスを手掛ける企業にとって、ロボットの足回り自体は他社と大きく差別化できる領域ではないが、実用化に足る耐久性や走行性能を自前で確保するのは簡単ではない。そこで、セニアカーの長年の実績を生かした「ロボットの足」を提案していく。
現在は、早期の社会実装に向けてさまざまなパートナー企業と実証を重ねている段階だ。試作品である電動モビリティベースユニットを借りて、パートナー企業は製品やサービスを検討する。山善のけん引型AMR(自律型搬送ロボット)やLOMBYのラストマイル配送ロボット、Doogの人に追従できる運搬ロボット、アイナックシステムのいちご収穫ロボットなどがその事例だ。そこから得られるフィードバックを基に、スズキは電動モビリティベースユニットの量産仕様を作り込む。
2025年2月に発表した電動モビリティベースユニットのIoT化は、パートナー企業に貸与しているものが対象だ。稼働状況や現在地を把握して運用を最適化したり、異常の早期発見とダウンタイム最小化に貢献するアフターサービスを提供したりする狙いがある。実際の使われ方を基に最適な量産仕様を検討していくこともIoT化の目的の1つだ。
パートナー企業に貸与した電動モビリティベースユニットには、けん引やラストマイル配送などのメイン機能が搭載されている。電動モビリティベースユニットの部分に通信機を取り付ける。通信機にはソラコムのIoT用SIMが搭載されており、ソラコムのデータ収集/蓄積サービスやダッシュボードをへてスズキの社内クラウドに集められ、分析できる構成となっている。IoT機能が量産仕様の電動モビリティベースユニットの一部となれば、構成は今後変わっていく。
ソラコムのダッシュボードでは、走行距離や消費電力量、電動モビリティベースユニットの電源オンオフやバッテリー電圧の変動が可視化される。これを基にスズキで分析し、点検やタイヤやバッテリーなどの部品交換を最適なタイミングで行うアフターサービスをつくっていく。また、稼働状況を基にした対応も可能になる。使用状況のヒアリングのタイミングもつかみやすくなる。
消費電力や電圧からバッテリーの使用状況を分析し、電池容量など最適な仕様を検討することもできる。乗用車の電動化においても、スズキは必要十分なバッテリー搭載量を重視している。
こうしたIoTプロジェクトは電動モビリティベースユニットにとって初めての取り組みだった。乗用車とは使われ方が違うため、新たに必要な機能を整理する必要があった。
ソラコムはIoTに取り組む企業に企画/検討段階から伴走し、迅速なプロジェクトの開始や商用展開までサポートする。スズキ向けには、2025年3月に2日間のワークショップを実施した。電動モビリティベースユニットに必要なIoTシステムの要求事項や機能を整理するとともに、開発ロードマップや必要なリソース、アクションなどもソラコムが協力してまとめた。今後の開発の本格化に向けてもソラコムがサポートしていく。
上村氏は「IoTで何を実現するか、誰にどんな価値を提供するか、メーカー側とユーザー側のさまざまな視点から早めに整理しておくと、どのようなデータが必要なのかが明確になる」とIoTプロジェクトのスタートを振り返った。石川氏も「提供する価値をしっかり決めた上で何をしていくか、最初に整理できたのがよかった」とコメントした。
電動モビリティベースユニットの“上屋”となる部分もIoT機能が必要になりそうだが、スズキとしてどこまでIoT機能を手掛けるかはパートナー企業の動向も見ながら今後検討していくという。
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