ジオフェンシング制御の適用準備は地道な作業だ。首都高周辺の走行可能なサービスエリアにジオフェンシング制御が干渉しないか、現地で何度も往復して確認する。首都高の出入り口に関しては、電動キックボードに乗って確認することができないため、自動車に電動キックボードを積載して、料金所の手前でジオフェンシング制御が作動するかを何度も確かめる。「現地で検証を重ねた上で設定していくため、一気にジオフェンシング制御を適用するのは難しい。時間がかかるが、首都高速道路からは慎重に進めるよう賛同を得ている」(井上氏)
警察や首都高速道路は、電動キックボードのジオフェンシング制御について「やっと対策してくれる、ありがたい」と歓迎している。同様のサービスを提供する競合他社は、高速道路への侵入がすでに数例発生しているにもかかわらず対策が十分ではないためだ。
首都高の他、アンダーパスやトンネルなどもジオフェンシング制御の対象とすることを検討している。「電動モビリティで走行する必要のない場所」として、公園などにも積極的にジオフェンシング制御を適用していく。
車道と歩道を識別するジオフェンシング制御は、現状ではGPSの誤差が大きく実現が難しい。電動キックボードは歩道の制限速度が車道よりも低く設定されているため、ユーザーは速度を切り替えて走行する必要がある。
Limeで借りた電動モビリティを返却する際は、ポートに停車してアプリから写真を撮って送ることで返却手続きが完了する。ただ、GPSによる車両本体の位置情報でポートにあるかどうかを判断しているため、GPSの誤差でポートから離れた場所でも返却手続きができることが課題になっていた。高いビルが近くにあると5〜10mの誤差が発生するという。他社のシェアリングサービス用ポートに返却されるケースもあった(他社の車両がLimeのポートに返却される場合も)。
ポートにビーコンを設置することで、ポートの3m以内でなければ車両の返却手続きが始められないようにした。ビーコンを複数設置すれば大きなポートでもカバーできる。
他社のシェアリングサービスでは、ポートではない路上で乗り捨てられる事例も散見される。通行を妨げ、事故のきっかけにもなりかねないため、ポートに確実に返却されることは重要だ。
ジオフェンシング制御も、ポートに設置するビーコンも、海外ですでに運用実績があるシステムだ。シェアリングサービスで電動モビリティを安全に使うための“基本装備”と位置付けている。ジオフェンシング制御は、日本の例よりもかなりきめ細かく設定した事例もある。海外では、ポートに戻す必要がない乗り捨て可能なサービスとして提供している地域もあるが、大都市は配備する台数が多くなるのでポートでの管理が必要になる。
海外では、シェアリングサービスの電動キックボードなどのモビリティが禁止された都市がある。Limeは、電動キックボードの駐車違反など問題視されたトラブルを踏まえて、安全重視の対策をとってきた。それを日本にも導入する格好だ。
Limeは、警告や罰金などペナルティーを抑止力にするだけでなく、そもそも違反をさせない仕組みを作ることが必要だと考える。問題が起きてから警告するのではユーザー任せになってしまって根本的な解決にはならないからだ。
ただ、テクノロジーで防ぐだけでは十分ではない。「制限をかけても抜け道を探す人が出てくる。テクノロジーで制限をかけていくことは重要だが、そもそもなぜそれがいけないのかを啓発していくことも必要だ。使う人のマインドセットを変えていくため、安全講習会を積極的にやっている。われわれだけでなく、同業他社や国も含めて一緒にやっていきたい」(Lime 日本代表のテリー・サイ氏)
Limeは世界の280以上の都市で電動モビリティのシェアリングサービスを提供する。日本には2024年8月に参入し、東京都内でポート設置エリアを拡大中だ。ポートは350カ所以上、利用可能な電動モビリティは1300台以上となっている。2024年11月には日本航空との連携で沖縄県那覇市でもサービスを開始した。2025年は関東でエリアを拡大する他、大阪や京都にも範囲を広げる。大阪・関西万博には200台の車両と、ユーザーが自分で電池を交換できるバッテリースワップステーションを提供する。
Limeのグローバルでの2024年の乗車回数の総計は2億回以上で、売上高は前年比31%増の1181億円、純利益は同32%増の1001億円だった。累計の乗車回数は7億5000万回に上る。
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