日系自動車メーカーのSDVは“多様さ”が鍵に、モビリティDX戦略が重視するものITmedia Virtual EXPO 2025 冬 講演レポート(1/2 ページ)

「ITmedia Virtual EXPO 2025 冬」の「未来技術戦略EXPO」において、経済産業省 製造産業局 自動車課 課長補佐の吉本一貴氏が「モビリティDX戦略が重視する3つの領域と足元の動向」と題して行った講演から抜粋して紹介する。

» 2025年03月21日 07時00分 公開
[長町基MONOist]

 ITmedia Virtual EXPO実行委員会が主催し、アイティメディアが展開するMONOist、EE Times Japan、EDN Japan、BUILT、スマートジャパン、TechFactoryの6メディアが企画したオンライン展示会「ITmedia Virtual EXPO 2025 冬」が2025年2月12日~3月14日に開催された。本稿では、同イベントの「未来技術戦略EXPO」において、経済産業省 製造産業局 自動車課 課長補佐の吉本一貴氏が「モビリティDX戦略が重視する3つの領域と足元の動向」と題して行った講演から抜粋して紹介する。

「ITmedia Virtual EXPO 2025 冬」で講演を行う経済産業省の吉本一貴氏 「ITmedia Virtual EXPO 2025 冬」で講演を行う経済産業省の吉本一貴氏[クリックで拡大]

モビリティDX戦略は3つの領域に分けて施策を推進

 カーボンニュートラルや地域の足の確保といった社会的な要請があるところに加えて、ユーザーのニーズの深化、またこれに応える技術の進展を背景に、自動車産業を巡ってGX(グリーントランスフォーメーション)/DX(デジタルトランスフォーメーション)の両面でグローバルな競争が展開されている。日本政府は、自動車を中心としたモビリティのDX分野において官民一体となった取り組みを進めるため、2024年5月に「モビリティDX戦略」を発表した。

 モビリティDX戦略は大きく3つの領域に分けて施策が検討されている。1つ目の領域は、米国のテスラ(Tesla)や中国の自動車メーカーによる技術進展で注目されるSDV(ソフトウェアディファインドビークル)だ。自動車の購入後においてもソフトウェアが継続的にアップテートできる機能を備えており、近年ではコックピットに大きなタッチパネルがあって車内でカラオケができるなど、数年前には考えられなかったクルマが登場している。

 2つ目の自動運転・MaaS(Mobility as a Service)領域においては、米国のウェイモ(Waymo)や中国の百度といったロボットタクシーサービスが既に始まっている。さらにテスラは、サイバーキャブというオーナーカーとロボットタクシーを掛け合わせたようなビジネスモデルの構築を目指しているとされ、クルマの保有から利用への流れがみられる。

 3つ目のデータ利活用領域では、データの秘匿性を確保しながら企業を跨いだデータの連携による価値創出が重要視されている。欧州では「Catena-X」が自動車産業のデータ連携基盤を構築し運用を始めた。

 自動車産業の構造はクルマの作り方の変革に伴う新たなプレイヤーの参入により、大きく変化している。車両のアーキテクチャ設計の主導権争い(半導体メーカーやサプライヤーのプレゼンス向上)、開発スピードの加速化(アジャイル開発思想を自動車に持ち込むIT系の新興/異業種メーカーの参入)、車両のサービスプラットフォーム化(車両製造は行わずコンテンツ提供に特化するサービスプロバイダーの参入)という動きが進み、従来の自動車メーカー同士の競争という認識は通用しなくなった。こうした環境の動きに合わせて、バリューチェーンも変化しており、川中の付加価値が相対的に低下し、川上と川下の付加価値が相対的に増加するスマイルカーブといわれる形がみられる。

 データの利活用についても大きな進展がある。サプライチェーン/バリューチェーンにおける異業種を含めたさまざまなパートナーとのデータ連携により、保険サービスや中古車市場でのデータの活用など新たな社会的な価値/サービスの提供やトレーサビリティーの確保が可能となった。

 今後のモビリティDXで競争が生じていく主要な3つの領域をまとめるとこうなる。1つ目は車両の開発/設計の抜本的な刷新(車両のSDV化)だ。クルマの作り方が大きく変わる中でソフトウェアを起点とした車両の開発が加速化していく。自動運転・MaaS領域では人流や物流サービスの持続的な提供が喫緊の課題となる。自動運転に寄せられる期待は大きく、ロボットタクシーなどでは競争が激しくなる。国内でもこうした取り組みを進めていく必要がある。データの利活用では、モビリティのライフサイクルに存在する多くのデータを活用することがサプライチェーンの強靭化や新たな価値の創出につながっていく。吉本氏は「これら3つの領域において官民のリソースをしっかりと結集して取り組んでいくことが重要だ」と方向性を示した。

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