ここからは、実際に用途開発マーケティングを進めた事例として、超音波はんだ技術を取り上げます。用途開発に取り組んだ結果、どのような用途が見つかり、新市場開拓につなげていくことができたのかをご紹介します。
超音波はんだ技術とは、キャビテーションを利用してはんだ付けを行う技術で、従来よりも容易かつ強力に接合でき、ガラスや金属といった異素材同士を接合できる点が特徴です。施策を始める以前は、「誰でも簡単に強力接合できる」という機能を生かして、大学や研究施設向けの実験器具製造などに活用される程度でした。しかし、「異素材接合」のニーズもあるのではないかという仮説を立て、新市場の開拓を目指す用途開発マーケティングがスタートしました。
情報発信を強化し、Webサイトのアクセス分析を行った結果、競合技術やアルミ関連のキーワードを使った検索から多くの流入があることが判明しました。調査を進めると、競合技術である溶接やろう付けよりも低い温度で接合できるメリットがあり、特に融点の低いアルミの接合に課題を抱えているユーザーが多いことが分かりました。そこで、「他の接合手法との違い」や「アルミはんだ付けが難しい理由」などに特化したコンテンツを発信することで、「アルミ接合」で困っているユーザーの獲得に成功しました。
問い合わせ内容を分析すると、エナメル線の接合でフラックスを使わずに金属表面の酸化膜を除去できることへの関心が高いことが分かりました。フラックスを使わないことで、洗浄工程を省略できるため、コストダウンや工程の簡略化につながります。さらにエナメル線径に合わせた穴やスリットを備えた専用のコテユニットを組み込んだ専用機を開発し、これをWeb上でPRすることで新たな顧客層を開拓しました。
当初想定していた「異素材接合」に対するニーズとしては、太陽電池の電極接合や光ファイバーへの応用など、実験/試作段階から実用化を目指すさまざまな問い合わせが集まりました。想定していた以上の広範囲な異素材接合需要を獲得できたことは、まさに用途開発マーケティングの成果と言えます。
こうした問い合わせをExcelで日々蓄積し、そのデータをChatGPTなどの生成AIツールで整理してもらえば、ニーズの傾向や新たな用途の可能性がより見えやすくなります。分析結果を反映してWebサイトをリニューアルし、さらに大々的に刈り取りフェーズへと移行することに成功しました。
自社が持つ技術の可能性を最大限に引き出すには、「刈り取り」と「種まき」の両方を視野に入れた技術マーケティングが必須です。特に「用途開発マーケティング」は、未知の分野で新たな顧客を見つけるための重要なアプローチであり、技術の多面的な要素分解と情報発信が成功のカギとなります。超音波はんだ技術の事例のように、刈り取りと種まきを上手に組み合わせることで、自社技術の可能性を切り開いていけるのです。
徳山正康(とくやま まさやす)
テクノポート株式会社 代表取締役
製造業専門のWebマーケティング事業と技術ライティング事業を手掛けるテクノポートの代表を務める。「技術マーケティングで日本の製造業に追い風を」を経営理念に、これまでに数名の町工場から一部上場のメーカーまで、累計1000社を超える製造業を支援し、数多くの企業の経営革新を実現。
グロービス経営大学院(MBA)卒業、(社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会 フェロー、(社)Reboot 理事、(社)Glocal Solutions Japan 認定専門家。
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