段ボール生産計画に進化計算を適用 さらに応用先を広げ生産工程DXを推進進化計算の最新動向を知る(2/3 ページ)

» 2025年03月10日 06時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

段ボール原紙のコストと落穂の数がトレードオフ

 今回の共同研究では、この生産計画の立案に進化計算を適用した。これは、膨大な原紙の組み合わせの中から、全ての注文書の原紙を決定する「原紙の組み合わせ最適化問題」となる。

 段ボールの注文は多様なため、1つの原紙の組み合わせで多品種をまとめて製造するのが効率的だ。だが別の注文を同時に製造すると、一部の段ボールの原紙のグレードを上げることになる。この原紙の価格の上昇を「コスト」とする。一方、コルゲータは長大であり、300m以上でなければ生産できないという制限がある。この制限により、その日に生産できない段ボールが発生する。この段ボールは「落穂(おちぼ)」と呼ばれる。

 紙のグレードを上げれば一連のシートでさまざまな段ボールを作れるが、コストは上がる。それぞれの注文に合わせた紙材を選択すればコストは上がらないが、300mに満たなくなり落穂が増える。このようにコストと落穂はトレードオフの関係にある。コストと落穂の最適なトレードオフを見いだす多目的最適化を実行することにした。

 今回は1日1000以上の注文書、各注文書につき20数種類から選定可能な原紙の規模について模擬試験を行った。進化計算では各生産計画を生物に見立てて、遺伝子交配のように優秀な解同士の掛け合わせを繰り返し、パレート解を得る(図2)。

 なお、今回の課題については、原紙の幅は用意されたものしかなく離散的な要素であるが、数値として連続したものであることから、ランダムに幅を選ぶのではなく、大小関係を利用して組み合せ最適化の難しさを軽減する仕組みを導入した。

進化計算による多目的最適化のイメージ 図2 進化計算による多目的最適化のイメージ[クリックで拡大] 出所:電気通信大学

 試行の結果、5種類のアルゴリズム全てで、熟練者よりも優れた解を得た(図3)。特に「NSGA-II」では落穂が半分になり、かつ低コストの計画を提示できた。作業員は、このパレート解から現場の諸事情を勘案して、適切な生産計画を選ぶことができる。

模擬実験の結果 図3 模擬実験の結果[クリックで拡大] 出所:電気通信大学

 NSGA-IIは2002年にKalyanmoy Deb教授らによって発表された、進化計算の代表的な多目的最適化アルゴリズムである。より最適なトレードオフをなす解集合が優先的に次の解を作るリソースとなるというシンプルさが特長だ。今までにさまざまなアルゴリズムが提案されているが、シンプルさ故に今回のように良い性能を示すことも多いという。

サプライチェーンがつながる中で自動化は必須

 藤尾氏は、「今は熟練した作業員が頭の中でさまざまな条件を勘案しながら計画を立てていると考えられます。進化計算は、自動で良い組み合わせ候補をいくつも出してくれるのが素晴らしいところです」と語る。

 なお、「現在は出てきた結果をそのまま生産計画として採用するには不十分です。もう少し熟練者の暗黙知を形式知化して、それをルールとして組み込む必要があります」と藤尾氏は補足する。最終的な目標は、進化計算を使って完全に立案を自動化することだという。

 進化計算の適用による自動化の意義について、藤尾氏は「これからも工場の自動化は進んでいくでしょう。CoPaTisユーザーの顧客側が自動化されれば、ジャストインタイムを実現するために、需要から製造計画など全ての情報をサプライチェーン全体で共有する流れは避けられません。また、技術者人口が減っていくことを前提とすれば、生産計画に携わる人員をより価値を生む研究などに回していく必要があります」と語る。

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