大日本印刷は、横浜国立大学と共同で、水素に反応すると電気抵抗が変化する水素検知膜とRFID(ICタグ)を組み合わせて、水素の漏えいを検知する「水素検知システム」を開発した。
大日本印刷(DNP)は2025年2月25日、横浜国立大学と共同で、水素に反応すると電気抵抗が変化する水素検知膜とRFID(ICタグ)を組み合わせて、水素の漏えいを検知する「水素検知システム」を開発したと発表した。
同システムは、水素製造プラントや水素ステーションの配管継手など、水素が漏えいしやすい部分に貼り付ける水素検知センサーと、電波の送受信アンテナ、小型のリーダー/ライターで構成されている。水素と反応すると水素検知センサー内で電気抵抗が変化し、その変化を電波でリーダー/ライターに戻すことで水素漏えいを検知する。
このシステムは、電波を活用し非接触で情報を読み書きできる自動識別技術「RFID技術」を搭載しており、複数のセンサーで水素の同時検出が可能で、離れた場所からの監視もできる。これにより、広い施設内における水素ガス漏えいの一元管理なども可能で、漏えい事故の防止や監視の効率化につながる。同システムではリーダー/ライターからの電力供給で起電し、データの送受信が可能なパッシブタイプのタグを使用している。
水素検知センサーは、センサー素子の加熱や火花が生じる危険性があるセンサー用電池を必要としないことで、着火のリスクが少ない。
同センサーは柔軟なフィルム状で製造できるため、水素ガスの配管や各種バルブの接続部など、さまざまな場所に設置可能なフレキシブル性を備えている。そのため、従来の固定型センサーでは対応が難しかった場所にも使え、より広範囲で水素漏えいリスクを管理できる。加えて、水素製造プラントや水素ステーション、水素自動車など、多様な施設/機器で使える他、設置も容易なため、導入に伴う時間やコストの削減にもつながる。
さらに、現場作業員が小型のリーダー/ライターを携帯することで、無色無臭である水素の漏えいをアラームで認識でき、水素関連業務の安全性向上に貢献する。
また、水素と反応すると色が変化するフィルムで検知する方法もあるが、定期的にフィルムを目視で点検する必要があった。今回の水素検知システムは目視確認が必要ないため、煩雑な点検業務の省人化にも貢献する。
今後DNPは、RFID技術を活用して横浜国立大学と共同開発した水素検知システムを、水素製造プラントや水素ステーションなどを建設するエンジニアリング企業や関連のシステムベンダー、水素エネルギーを販売する企業などに提供し、2030年度までに累計30億円の売上高を目指す。
水素エネルギーは燃焼時にCO2を排出しないクリーンエネルギーとして注目されており、日本国内の水素エネルギー活用機器/システムの市場規模は2030年度に6633億円になると予測されている。
一方、水素は都市ガスなどと比べて漏れやすく、発火/燃焼しやすいため、安全な取り扱いに向けて、検知システムにも一層の安全性が求められている。従来のガス漏えい検知器の多くは、高温に加熱した触媒素子を用いるものが主流で、この触媒素子が水素の着火源になるリスクがあった。
これらの課題解決に向けてDNPは、RFID関連事業や各種システム開発で長年培った強みと、横浜国立大学大学院工学研究院 機能の創生部門 固体の機能 教授の岡崎慎司氏が研究している水素検知材料や成膜技術を掛け合わせて、水素検知システムを開発した。
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