MONOist、EE Times Japan、EDN Japanはオンラインセミナー「MONOist DX Forum 2024-製造業の革新に迫る3日間-」を開催した。その中から「三菱電機のデジタル基盤“Serendie”」と題して三菱電機 執行役員 DXイノベーションセンターセンター長の朝日宣雄氏が行った講演の一部を紹介する。
アイティメディアにおける産業向けメディアのMONOist、EE Times Japan、EDN Japanは、2024年12月11日から13日まで、製造業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)をさらに推進するためのオンラインセミナー「MONOist DX Forum 2024 -製造業の革新に迫る3日間-」を開催した。その中から「三菱電機のデジタル基盤“Serendie”」と題して三菱電機 執行役員 DXイノベーションセンターセンター長の朝日宣雄氏が行った講演の一部を紹介する。
三菱電機は、2024年5月に新たな事業DXのデジタル基盤として、“Serendie(セレンディ)”を発表した。“Serendie”は、データ分析やWebAPI連携を行うための技術基盤、社内外のさまざまな知恵が集まる場としての共創基盤、DX人財強化を目的とした人財基盤、そして、アジャイル開発を推進するためのプロジェクト推進基盤から構成される。講演では今回の取り組みの狙いやその背景を解説した。
三菱電機は創業以来、社会システム、電力産業システムから半導体、制御機器、空調機器、エレベーターなどの事業を展開してきた。各事業で製造している製品とそれを購入する顧客は、以前は密接に関係していた。そのため、各事業本部は独立的に事業を行っており、それでも特に大きな問題は発生しなかった。
しかし近年、市場が複雑化、多様化するにつれて顧客のニーズも大きく変化してきている。こうした背景から、2022年度から9つの事業本部を、4つのビジネスエリア(インフラ、インダストリー・モビリティ、ライフ、ビジネス・プラットフォーム)に統合した(ビジネスエリアとは別に事業本部としてセミコンダクター・デバイスがある)。そして、それぞれに役員を配置して、互いの事業本部の顧客、製品を組み合わせるなど連携して事業を展開できるような組織を構築した。
三菱電機では2022年度に「循環型 デジタル・エンジニアリング」というコンセプトを掲げ、これまでに販売したコンポーネントやシステムから得られるデータをより効果的に使い、顧客のニーズに真摯(しんし)に応えていくということを提唱してきた。これは、ステップ1としてまずデータを集約。ステップ2では顧客の潜在課題のニーズをデータから顧客と共に発見し、ステップ3、4で課題に対して新たな価値を創出し、幅広い顧客へ価値を還元していくというものだ。事業をそれまでの製品を作り、ユーザーに届け、使ってもらうというものから、大きく形態、考え方を変えていくと宣言した。
三菱電機は製造業としてユーザーに新たな機器の提案をし、それを設計、製造、販売するという、ノウハウや品質を担保するためのルール、機能の開発に長い期間取り組んできた。ただユーザーに製品を販売した後に、新しい価値を提供するところまでは及んでいなかった。もちろん製品が壊れないよう、長く使ってもらうためにユーザーの運用サポートや、保守/修理サービスはメーカーとして提供してきた。ただ、これは新しい付加価値を提供するものではなかった。
現在では循環型デジタル・エンジニアリングの考え方に基づき、インターネットにより、販売後の製品に搭載されたソフトウェアをアップデートしたり、また、スマートフォンを介してクラウドから新たなサービス機能を提供したりすることを可能にする仕組みを構築している。このようにすることで、販売後の製品も機能を向上させることができるため、ユーザーにとっての価値向上につながる。
このような新たな機能は、ユーザーが製品を使っている間に見つかった課題に対して、解決策をユーザーに早く届けることが重要である(アジャイル開発)。そして、ユーザーに届いた製品の対価に加え、サービスモデルとして新たに提供した機能への対価をサブスクリプションとしていただくことになるため、事業創出開発スピードやビジネスモデルを今までの考え方と大きく変えていく必要がある。朝日氏はこれを「技術マインドセットの変革」として、2023年4月に同氏がセンター長を務めるDXイノベーションセンターを設立し、全社体制での活動を実施している。
三菱電機では、これまで、電力システム事業ではBLEnDer(ブレンダー)、ビルシステム事業はVille-feuille(ヴィルフィーユ)、空調・家電事業のLinova(リノバ)など、クラウドシステムを使ったプラットフォームを各事業本部がそれぞれに保有し、ここに機器からのデータを集約し、クラウドシステムから機能を提供する活動を実施していた。
しかし、ビジネスエリアを設けて、事業を横断的に取り組んでいこうとしているにもかかわらず、各事業本部がそれぞれ固有のシステムを保有していることによって各事業本部を超えたデータ流通がなかなか実現しないという課題があった。1つの施策として全てのクラウドシステムを統合することも検討したが、それぞれの事業に特化しているために難しかった。
そこで、事業の縦割り(サイロ化)の弊害を解決するため、新しい考え方として、Serendie(セレンディ)を導入した。「各クラウドにたまっているデータや機能を一度各クラウドから集めて、これらを共有するという活動をSerendieの名のもとに取り組んでいる」(朝日氏)とする。これによって、例えばファクトリーオートメーションと電力を組み合わせて、カーボンニュートラルに寄与する工場での生産全体の最適化を提案する、交通と電力を組み合わせて省エネ化に寄与する鉄道向けソリューションを開発する、といったことが可能となる。また、顧客だけでなくパートナーともさまざまな連携ができるというメリットもある。
Serendieは、Serendipity(偶然の巡り合いがもたらすひらめき)と、Digital Engineeringを掛け合わせた造語。三菱電機は、多様な人財との出会いとさまざまなデータを基に得られた新たな気付きから、技術力と創造力により、将来に向けた新たな価値の持続的な創出を図り、結果的に顧客、パートナーとともに、活力とゆとりのある社会の実現に貢献することを目指している。Serendieはクラウドのデータなどを集める(デジタルプラットフォーム)だけでなく、技術基盤、共創基盤、人財基盤、プロジェクト推進基盤の4つの基盤(インフラストラクチャ)から構成される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.