マテリアル領域におけるソリューション型事業の事例として自動車内装材と電解関連事業の例が紹介された。
自動車内装材事業では、人工皮革「Dinamica」をはじめとする繊維製品や繊維製品への高いデザイン性と加飾/後加工技術を自動車メーカーへ提供。欧米を中心に大手自動車メーカーで採用実績がある他、米国、欧州、日本、中国と地域ごとに適地生産体制を整備している。
旭化成 取締役 兼 副社長執行役員(研究・開発・DX統括)の久世和資氏は、「当社は2018年に自動車内装材に用いる各種繊維製品の開発、製造、販売を手掛けるSage Automotive Interiorsを買収した。買収後、同社の製品であるDinamicaの売上高は約2倍に拡大した。素材拡充戦略の一環で成長潜在性が高いポリ塩化ビニール(PVC)合成皮革に新規参入した。2020年度には中国の合弁企業とSage Automotive Interiorsの事業を統合し、売上高を3年で約6倍にした」と話す。
自動車内装材事業の無形資産は「顧客提案力」「デザイン力」「新素材開発力」の3つだ。「顧客提案力」では対象の自動車メーカー別に営業マネジャー制を採用した事業運営体制を構築し、顧客の自動車づくりのコンセプトを理解した上で製品を提案している。
「デザイン力」では、モノづくりやビジネスにも精通し顧客デザイナーのコンセプトを製品に落とし込めるデザイナーが所属していることに加え、耐久性などの機能性とデザインの両立を実現する高い技術力を持っている。
「新素材開発力」では祖業の繊維事業で培った技術やノウハウを生かし新規表皮材の開発を進めている。生産技術や知的財産なども含めたモノづくり総合力も有す。
今後は、各自動車メーカーに対して異なるデザイン提案を実施するだけでなく、各地域で違うデザイントレンドに対応しカスタムできるデザイナー体制を構築し、自動車のシートや内装装飾材の開発に生かす。さらに、旭化成で新素材の研究開発を進めるとともに、コーポレートベンチャーキャピタルにより投資したスタートアップを活用し技術開発も推進する。
これらの取り組みにより、Sage Automotive Interiorsのデザイン提案力と旭化成の素材開発力を軸に内装装飾の製品ポートフォリオを強化し、価値提供領域を車室空間全体に拡大して、自動車内装材事業で2030年ごろに売上高で約3000億円を目指す。
電解関連事業のソリューション型事業としてイオン交換膜法食塩電解事業の事例が紹介された。イオン交換膜法食塩電解事業ではイオン交換膜を使用して食塩水を電気分解し、塩素、水素、苛性ソーダを生産する事業を対象に、電解槽、膜、電極、セル、モニタリング機能など全ての要素技術を提供している。「業界で唯一全ての要素技術を提供している」(久世氏)。同社の電解槽は世界30カ国/160工場以上で採用されている。同社は電解プロセス向けモニタリング装置/システムの開発と販売を手掛けるRecherche 2000(カナダケベック州)を2020年に買収している。
イオン交換膜法食塩電解事業の無形資産は「製品技術」「オペレーションノウハウ」「顧客基盤」となる。「製品技術」では幅広い製品の技術を持っており、顧客がイオン交換膜法により塩素、水素、苛性ソーダを生産する際に生じる課題に対応できる。
「オペレーションノウハウ」では、グローバルで複数の拠点に営業とテクニカルサービスの担当を配置し、顧客をサポートできる体制を確保。トラブル発生時はオペレーションノウハウと製品技術を基盤に、原因の特定から対処まで行える。
「顧客基盤」は50年にわたる顧客サポートで培った知識と経験や、課題解決力がある人財とチーム力となる。
今後はモニタリングから最適運転サポートまでのデータドリブンサービスを展開するとともに、デザイン思考とアジャイル開発を組み合わせ新しいサービスを生み出す。
併せて、イオン交換膜法食塩電解事業の展開により長年にわたり蓄積してきた顧客基盤、技術、サービスプラットフォームをアルカリ水電解水製造のビジネスにも展開。水素関連事業で多様なパートナーとの協業も実現する。これらの取り組みにより、2030年ごろに水素事業の売上高を約1000億円とし、グローバル展開を目指す。
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