近年、AIを用いた新材料の探索やシミュレーション、材料の特性予測、プロセスの最適化、デジタルツインの構築により研究開発の効率の高めるケースが増えつつある。
レゾナックが材料開発でAI活用を開始したのは2016年で、これまでにさまざな成果を獲得している。一例を挙げると、レゾナック、東京大学、物質・材料研究機構(NIMS)の研究開発ではアルミニウム合金の設計条件と機械特性の相関を高精度で予測するニューラルネットワークモデルを開発した。これにより、両者は高温域で強度を保持できるアルミニウム合金の開発に成功している。
レゾナックの材料開発でAI活用を推進しているのが計算情報科学研究センターだ。計算情報科学研究センターは現在、分子設計グループ、構造/流体グループ、AI解析グループ、情報/インフォマティクスグループ、マテリアルズインフォマティクス(MI)基盤開発グループ、企画管理グループで構成される。
レゾナック 計算情報科学研究センター 情報・インフォマティクスグループの南拓也氏は、「2015年以前の計算情報科学研究センターは、材料のミクロ領域を対象とした第一原理計算、量子化学計算、分子動力学計算や、マクロ領域をターゲットとした流体解析、伝熱解析、構造解析など、シミュレーションを用いた取り組みに注力していた。2016年以降は、技術情報とデータ基盤を構築し、機械学習やMI、統計解析、画像解析といったAI活用も推進している」とコメントした。
同センターは2015年時点では約10人の従業員しか所属していなかったが、2024年には80人超の従業員が所属しており規模が拡大している。
同センターでは2016年以降、材料開発における社内での課題を受けて、解決するAI技術を開発し、特許を出願している。「これにより2023年時点でMIに関する保有特許の価値が他社と比べて26倍となった」(南氏)。
加えて、材料の研究/開発現場におけるAI技術普及に向けた取り組みとして、「統計解析ソフト導入と社内教育」「データパイプラインの構築、提供」「配合最適化システムの構築、提供」を行った。
「統計解析ソフト導入と社内教育」では、プログラミング不要で実験や材料のデータを手軽に分析/可視化できる統計解析ソフトのJMPを導入した。「統計解析ソフトとしてJMPを採用した決め手はプログラミングができない社員にも材料開発でMIやAIを使ってもらうためだ」(南氏)。さらに、社内で材料の開発と研究に携わる社員を対象に、計算情報科学研究センターがJMPの説明会や研修、利用のサポートを行っている。その結果、2023年時点でJMPのライセンス保有者は1000人を超えている。
「データパイプラインの構築、提供」では、実験データをJMPに円滑に取り込めるワークフローを作成した。手順は以下の通り。まず、決まったフォーマットで実験記録を電子実験ノートにアップロードする。実験データは画像やテキストなどを含む非構造データだ。次に、この非構造データをダッソー・システムズのデータサイエンスプラットフォーム「BIOVIA Pipeline Pilot」にアップロードし、BIOVIA Pipeline PilotによりJMPでの統計解析に適したデータに自動整形する。自動整形され、解析用に整理された構造化データを実験データベースに蓄積した後、JMPに取り込みAIおよび統計で解析を実施する。また、JMPの解析結果と電子実験ノートの定性情報を確かめられるようにしている。
「配合最適化システムの構築、提供」では、AIモデルとアニーリング技術を活用した配合最適化システムを構築した。同システムは、設定した材料の目標特性(現像性や感度など)を実現する材料を作るために必要な物性をAIで導く。この物性を踏まえてアニーリング技術で最適なポリマーの配合比/組成を算出する。同社は同システムにより熟練者の同作業と比べて開発期間を5分の1に短縮できることが分かっている。
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