単位操作の知識を用いて、プロセス全体の設計が行われます。簡単に設計のイメージを紹介します。
1.化学反応の速度や平衡を理解し、最適な反応条件や触媒を選定する
2.選定した条件から単位操作の組み合わせを考える
3.接続された前後工程を意識しながら単位操作ごとに物質やエネルギーの流れを計算する
4.プロセスが決まれば、温度や圧力、流量などの運転条件と制御方法を決定する
5.構築したプロセスを図面に落とし込む
プロセス設計で特徴的な図面はプロセス設計で特徴的な図面は「PFD」と「P&ID」です。PFD(Process Flow Diagram)はプロセス全体の流れを分かりやすく記載した図面です。主要機器の配置と接続関係、物質の流れが示されています。プロセスの全体像を把握するのに役立ちます。
P&ID(Piping and Instrumentation Diagram)は全ての機器/配管について、種類や接続関係が正確に記載された図面です。工事を行う上で必ず必要になります。
これらを図面の形に仕上げて工事できる体制を整えることが設計の目的です。
プロセス設計は、単に機器の組み合わせを考えるだけではなく、化学工学の知識を総動員して行う複雑な作業です。近年では、省エネルギーや環境負荷低減の観点から、既存プロセスの改善設計も重要な課題となっています。
また、近年ではAI(人工知能)を活用することで、より効率的なプロセス設計が可能になりつつあります。蓄積した運転データを用いてプロセス設計することをプロセスインフォマティクスと呼びます。
化学工学の知識は多種多様な産業で活用されています。その応用範囲は年々広がりを見せており、持続可能な社会の実現に向けて重要な役割を果たしています。
例えば、食品加工では、熱処理やろ過が日常的に行われており、化学工学的な視点から最適な加工プロセスが組み立てられます。また材料を混ぜるときは「撹拌」の単位操作が用いられます。
他にも水族館においては、水質管理が施設運営の要(かなめ)となります。「伝熱」の単位操作により水温を調整したり、「ろ過」のような固液分離技術を活用したりすることで餌の残渣除去が可能です。
さらに環境問題への対応において、化学工学の果たす役割は極めて大きくなっています。排ガスからのNOxやSOxの除去には「ガス吸収」という単位操作が用いられます。水質浄化に関しても、活性炭処理で有名な「吸着」という単位操作が用いられます。
このように、化学工学の基礎知識はさまざまな産業分野で応用されており、その重要性は今後さらに高まるはずです。特に、カーボンニュートラルや循環型社会の実現に向けて、化学工学的なアプローチがますます注目されます。
本連載でこれから化学工学の解説を行っていくに当たり、まずは化学工学という学問自体のイメージをお伝えしました。単に化学反応を扱うだけでなく、そのプロセス全体を効率的かつ安全に運用するための総合的な工学分野です。次回からは、各単位操作やプロセス設計の具体的な内容について解説していきます。
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