N100系スペーシア Xは東武特急の在り方をも変えた。
1つ目は特急の序列。昭和のフラッグシップである1720系デラックスロマンスカー、平成のフラッグシップである100系スペーシアを充当する特急の列車愛称は、長年にわたり“最上位”と位置付けられていた〈けごん〉〈きぬ〉だった。
N100系スペーシア Xは車両愛称と同じ「特急〈スペーシア X〉」になった。フラッグシップ車両と最上位特急の列車愛称が世代交代するという、東武の歴史に大きな1ページが刻み込まれた。
2つ目は急行灯の廃止である。昭和の時代から東武優等列車(当時は特急のほか、有料の急行が運転された)は終日に渡りオレンジの急行灯が光り輝いていた。しかし、2006年6月1日(木曜日)から各駅停車など一般の列車も含め、全列車の前部標識灯(前照灯)が終日点灯になり、急行灯の意義が薄れたようだ。
N100系スペーシア Xの特長は、新技術などをふんだんに取り入れていることだ。100系スペーシアに比べ、CO2の排出量を最大40%削減するほか、使用電力相当分を東京電力エナジーパートナーのFIT非化石証書を活用したメニューなどを使用することにより、CO2の排出量を実質ゼロとなる電力に置き換えている。
デジタル方向幕は交通電業社のガラス一体型LCD表示器「彩Vision」を採用した。高輝度液晶による可視性の向上、ボンディング技術(ガラスに液晶ディスプレイを特殊な樹脂材で貼り合わせて一体化する技術)によって、光の反射を抑え、屋外でも彩り豊かな表示と広い視野角を実現した。LEDに比べ、細かい文字も見やすく、分かりやすく表示できる他、より多くの情報量を表示できる。
優等車両の先頭車は乗務員室と客室の仕切りが壁と化していたが、N100系スペーシア Xは一転してガラス張りに。併せて運転台の位置も低くなったが、中央に配することで視界を確保している。
車内で、もっとも際立つのがよどみのないクリーンな空気が流れることだ。空気清浄機は鉄道車両の導入例が多いパナソニックのナノイーに加え、空間除菌消臭装置として日機装のAeropure(エアロピュア)を鉄道車両として初導入した。深紫外線を照射し、空気中に浮遊するウイルスや菌を除去することで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの感染防止対策を図る。
100系スペーシア、500系リバティ、特急〈りょうもう〉用の200系に比べ、快適性が格段に向上したのは言うまでもない。空調関係の設備が大いに充実したことで、さわやかな空間を創出している。
1号車はコックピットラウンジになっている。目玉はデッキ付近に設けられたGOEN CAFE(実際のEはスペイン語など用いられるアクセント付きのE) SPACIA Xというカフェカウンターで、クラフトビール「Nikko Brewing」とクラフトコーヒー「日光珈琲」を看板メニューに、アペタイザー(前菜)やスイーツ(アイス、焼き菓子、生菓子)を用意した。
飲み物は他にクラフトコーラ「ニッコーラ」、りんごジュース、ミネラルウオーター、日本酒を用意。メニューのほとんどを地域の事業者と共同開発した“栃木ブランド”にそろえた。N100系スペーシア Xは地域といっしょに作り上げ、これからを育む車両なのだ。
その先は客室で、1/2/4人用のソファを配置。1人用は乗務員室の後ろに2席用意。前面展望は立ち見でないと眺められないものの、“日当たりのよい席”なので、1人で飲食や読書などを楽しむには落ち着いて過ごせそうだ。また、4人用は2人から利用可能である。
なお、1号車は荷棚がないので、大型荷物はデッキの大型荷物置き場(1/3/4号車に設置)を利用する。盗難防止用に交通系ICカードで施錠できるワイヤーロック付き、なおかつ付近に防犯カメラが設置されているので、安心して利用できるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.