R-Car X5Hのフレキシビリティを示すのが、チップレットによって機能を拡張できるようになっている点だ。ADやADASに求められるAI処理性能は将来的には400TOPSにとどまらず、より高度なデジタルコックピットになればグラフィックス処理性能も4TFLOPSでは不足するかもしれない。「そこで、シングルチップのR-Car X5HのダイにNPUやGPUのチップレットを組み合わせて拡張できるようにした」(布施氏)という。同一サイズのFCBGAパッケージをベースに、R-Car X5Hのダイとチップレット間接続の標準規格であるUCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)に準拠するNPUやGPUなどのチップレットをつないでSIP(システムインパッケージ)によって集積し提供することになる。
車載SoCの高機能化や多機能化への対応におけるチップレット採用の動きは加速しており、2023年12月にはチップレット技術を適用した車載SoCの研究開発を目的とするASRA(自動車用先端SoC技術研究組合)が発足した。ASRAにはルネサスも参加している。R-Car X5Hにおけるチップレットによる機能拡張はルネサス独自のコンセプトだが、今後ASRAでの研究開発成果なども反映される可能性がある。
フレキシビリティの観点でもう一つ重要な特徴になるのが、SDVに対応するとともにクラウドベースでの開発が可能なソフトウェア開発プラットフォーム「ROX(R-Car Open Access)」の提供である。クロスドメインを特徴とするR-Car X5Hは、Cortex-R52を用いる制御系システムとCortex-A720AEを用いるAD/ADASやコックピット、ゲートウェイのシステムを統合して開発する必要がある。また、これらのソフトウェア開発はサンプル出荷の2025年上期や、量産出荷の2027年下期よりも早い段階から始める必要がある。そのために、ROXの提供は2024年6月に先行して開始している。
電力効率につながるのが、TSMCの車載向け3nmプロセスの採用である。マルチドメイン対応の車載SoCとして同プロセスを採用するのは業界初だという。消費電力では、特定の処理において5nmプロセスと比べて30〜35%削減できるなどの効果が得られている。これによってシステムの冷却方式について、システムの小型化や簡素化、機能安全規格準拠の容易化につながる空冷を採用できる可能性が出てくる。また、停車時でもセンシング機能だけをオンにするセントリータイプの低電力動作モードをサポートするなど、最新の自動車のユースケースに対応している。
ミクスド・クリティカリティは、複数ドメインにわたる制御を1チップで行うためのハードウェアとしての仕組みによって実現した。R-Carシリーズ独自の実績ある無干渉(FFI)技術を適用するとともに、RegionIDによるメモリ保護、QoS(Quality of Service)拡張などによって、ハードウェアベースでのドメイン分離が行えるようになっている。
布施氏は「R-Car X5Hからスタートする第5世代R-Carは、エントリークラスから高級車までスケーラブルにソフトウェアを再利用できるようになっている。ここまでのレベルで車載ソフトウェアの幅広い再利用をうたっている企業は他にはないだろう」と述べている。
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